第一部 闇から雨のち晴れ

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6月、大安吉日の午後。 俺は再び陽輝村へ行くために、バス停で迎えの車を待っている。 水を捨てるように容赦なく降る雨にスーツの足元が濡れ、めでたい日に 少しだけ邪魔が入った。 そういえば、トンネルの中の女に『服の趣味が悪い』と、言われたな。 今回は、しっかり正装しているし、ついでに髪も美容院で整えてきた。 もうケチなんてつけさせねえぞ! あ、傘がなんも変哲のないビニール傘だからダメか? と、いまだ根に持つ、あのときの出来事を思い起こしていた......そのとき。 「すみません......」 ふと、女性の声がして俺はそちらを振り向いた。 バス停は、ただ標識が立っているだけだ。 周囲は緑に囲まれた山道で、バスのような大型車は対向車とは すれ違うことができないほど先の道が狭い。 だからここが終着地点になっている。 そして終着地点までバスで来る者は少ない。 村人たちは自家用車を所有しているので自身で移動できるし、村へと 向かう業者もまた大型車以外でやってくる。 バスを使うのは車を持っていないタイプの、俺のような『よそ者』 くらいなのだ。 それで独りでいる俺に、若い女性が声をかけてきた。 かなりの美女だった。
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