第二部 猫と探偵と高円寺

1/45
前へ
/199ページ
次へ

第二部 猫と探偵と高円寺

おまわりさん、ごめんなさい。 あたし、やらかしました。 携帯で地図アプリを使ってもさっぱりわからなくて。 野方(のがた) の駅前の交番で住所を告げて聞いてみたら......。 丁寧に教えてくださいましたよね。 「えっと、ここだから......。まず真っすぐ行って、そこに見える和菓子屋で左に曲がって、ずーっと行くと中学校があるからそこを右に曲がって、そこから、橋を渡って、それで......高橋さんて方の家の表札をみつけたら、その目の前をずっと歩いて斜め前くらいだね」 わかんなーい!橋までは来れたんだけどーっ! そこからグルグル回っちゃいました!   野方というのは、西武新宿線 (せいぶしんじゅくせん) の各駅停車しか 止まらない質素な町で、でも駅前が充実していて住みやすそうな感じ。 でも、あたしは阿佐ヶ谷(あさがや) に住んでるから、初めてきたから 文字通り右も左も前も後ろもわからなくなった。 閑静な住宅地内が入り組み、あっちで曲がれは行き止まり、こっちを 進み続ければ、元の場所まで戻ってしまう、それの繰り返し状態です。 さっきからずっと! あーっ!もう高橋さんの家もわかんなーい! なに?こういうときに言うの?キツネにつままれたみたいって......。   しかしながらキツネさんにあたしは勝った!2時間かけて! 駅から徒歩15分のアパートへと......2時間!かけて!辿り着いたのだ! おまわりさーん!あたし、あたし、やったよーっ! とか叫びたい気分だったけど、こんな住宅が密集した場所で叫んだら 別の意味でやらかして通報されておまわりさんがきてしまう。 とにかくまあ着いて良かったし、それと秋で良かった。 もしも真夏の真昼に2時間も道に迷ったら、熱中症とかやばかった。 『キイロくんに何かしらあったのかもしれない。 自宅まで行ってみてほしい』 と、職場の上司に言われて来たのに。 それを確認する前にあたしが死んだら洒落にならない。
/199ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加