第一部 闇から雨のち晴れ

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「トンネルを抜ければ陽輝村 (ようき むら) だが、行きなさるか?」 黒パンに黒の長靴、黒いパーカーのフードを、深くかぶっていて 顔はよく見えないが、声の渋さからして年配の男だとわかった。 「え、えぇ、そのつもりです」 返事をした声が少しうわずってしまったのは、なんだか恐かったせいだ。 真っ黒い風貌も不気味ではあるが、農作業中の人という感じがしない。 声にしても穏やかだが、妙な警戒心が働いてしまった。   「何の用事で村に行きなさるか?」 男が再び聞いてきた。 「あ......探偵の仕事として、です」 よくよく考えると俺のほうが不審かもしれないな。 「探偵?村は平和そのものでな、事件は何も起きてはおらんよ」 「いえ、探偵なら事件にちょっかいを出すというわけではなく。 俺のような雑用を引き受けるタイプは、おつかい事もするので」 「つかい?なんのつかいかね?」 「えーと」 「なんの、つかいかね?」 どうしても聞きたいというより、聞きだしたいように感じた......。 変な汗が出てしまったのは古着屋で買ったコートの厚みだけではなかった。
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