第二部 猫と探偵と高円寺

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「ごめんなさいね、お願いしますねー、私、無理、ほんと無理っ!」 大家の山寺さんは、小走りで去っていき、あたしたちは部屋の中へと 侵入した。 二階の部屋として方角としても日当たりのいい部屋で、明るくて ライトグリーンの遮光カーテンを絞めていても、日の光は室内に あふれていた。   玄関は小さめ、入ってすぐに台所、中型の冷蔵庫の上に電子レンジ。 その向かいに風呂場、少しだけ開けてみると、ユニットバスだった。 そして細い廊下の先が、フローリングのワンルームでロフト付きで ハシゴの階段があって、階段のそばにノートPCの置かれたテーブル。 奥の壁に備え付けのクローゼット、正面の窓際に木製の収納ベッド。 右の壁際に本棚がひとつ、アジアンテイストな柄の丸形の椅子には キイロくんがよく身に付けてる、肩掛けカバンが置かれてあった。   「へえ、ワンルームでこれだけ広い部屋は珍しいな。 ロフトがあるから天井が高いし。更にクローゼットまであるから 収納も豊富だし、古いとはいえ良い部屋だ」 落合さんが部屋全体を見て回りながら、しみじみと言ってきた。 「あの、物件をみにきたわけじゃないんですから。 それより何かわかります?」 「あ、すみません。 探偵をやる前に、ワンルームに住んでたんですけど。 一階で日当たりが悪くて狭い部屋だったんで、つい。 わかったこと?彼はずっとこの部屋を放置している。 そして別の誰かは侵入していない。 それくらいですかね。あ、あと犬好き?」 「犬......?」 それを意識して改めてみてみると。 チワワを抱っこしてる本人の写真が、木製の写真立てで本棚に 飾られているし、肩掛けカバンも、犬をデザインしたバッヂが 付けられてて、布団掛けカバーも犬のキャラ模様だった。
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