第二部 猫と探偵と高円寺

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―――ポンちゃんへ。 一週間って、微妙な期間ですね。 長いようで短い、短いようで長い。 ゆったりできそうなのに、 なんだか期限に急かされる。 そんな日数でした。 そして僕は悩んで悩んで悩み尽くしました。 ベッドの上で寝てばかりで、こまめにやってた掃除もせずに ひたすら考え続けてました。 眠ることはできるけど、お腹は空かない。 そして目が覚めて、また悩む。 そんなことをしてたら、このブログ、というかブログの下書きとして メッセージを残すのを忘れかけていて、いま大慌てで書いてます。 ポンちゃん、僕はきっと人間に生れたこと自体が間違ってたんだ。 そう思っていたのに......。 やっぱり人間としての自分が捨てきれない。 ただひとつ、あの人に名前を呼んでもらう瞬間だけが どうしても手放せないんだ。 僕は職場で『キイロ』と呼ばれていたけど あの人は僕を『キサ』と呼んでくれていた。 『キサ』と僕を呼ぶときの声、顔、笑顔.......。 それを失くしたくない。 ポンちゃん。 僕は答えを出しました。 僕は猫にはなりません。 それが、この一週間で僕の出した結論です。 よろしくおねがいします。 ベッドの上だけは整理したけど 他はやれる気力がもうなかった。 人間に戻れたら、床を磨いて本棚の埃も綺麗にしたいな。 あ、実家にも帰りたい。 家族とポロロに会いたい。 仕事は、もうクビになってるのかな? それは自業自得だね。 キイロより。―――
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