第二部 猫と探偵と高円寺

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「猫かあ......。いや、野良猫はキツイっしょ。 まあ人間もキツイけど」 落合さんが腕組みをして言ってきた。 「ですよね。野良猫はダメですよ」 あたしはPC画面をみつめながらつぶやいた。 「だからって、野良猫以外にするなんて、それもダメでしょ」 「......ダメ?」 「ダメですよ。まず人間を別の姿に変えるってこと自体がダメだ」 「落合さん」 「はい」 「何もかも、わかってるんですね」 「そりゃもう、あなたに会った時点で」 あたしは椅子を少し動かして、PC画面ではなく彼と向き合った。 「ねえ、ポンさん。そこにいるのが......キイロくんなんでしょ?」 落合さんが右手ごとテーブルへと向けた。 ここで『人に向けて』指を差さないところが紳士的だ。 PCの置いてあるテーブルの左端に......。 手の平サイズの木彫りの黒猫の置物がある。 落合さんは、それのことを言ったのだ。 「ポンさん、あなたの正体はタヌキだ。 そして人の姿を変えるほどの能力を持っている。 キイロくんを木彫りの猫にしたのは、あなたですね」 カタカタと木彫り猫が動いた。 まるで『野良猫じゃないのかよ』って、抗議してるみたいに。
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