第二部 猫と探偵と高円寺

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猪熊さんのいれてくれる玄米茶のほうが、確かにあたしがいれるより おいしいのは事実です。 そしてテーブルに個別包装のクッキーがある。 キイロくんが、1週間も連絡無しで無断欠勤したお詫びに持ってきた 箱型の50枚入り。 もちろんあたしにも責任があるので......。 2人で買ったから、大き目になったわけだ。 「うめぇっ!このクッキー、滅多に食う機会ないからありがたいっす」 日本茶をおかわりしながら落合さんがくつろいでいて、猪熊さんは のほほんな顔をしている。 あれ?よくよく考えると、すごいトライアングルじゃないの?これ。 1人は神様で、1人はタヌキで、そしてもう1人は......。 弟が神様だと言ってた謎の人物。 「あ、あの、落合さん?今回の件は、猪熊さんと、 ちみみみももうぼうれいほかくかんんん」 「機関ってもう略しません?言える俺だって言うの疲れる。 そっちのほうだけです。 いろんなことは後になってから機関から知らされたんです。 それで俺なりに猪熊さんに対しても何かある気がして、 個人で連絡しました。そしたら猪熊さんは、ポンさんのしたことを 何もかもわかってたんですよ」 「ひえぇーっ!!猪熊さんは、敢えてあたしに アパートに行かせたってことですか!」 「そういうことです。さすがは店長であり神様だ。 まあ、俺は偶然にポンさんと出くわした時点で、 これは何かあるとは思いましたけどね」 「ということは、あの名推理はガチだったんだ?」 「まあ、そうっすね。とはいえマヌケな話しです。 なにしろライヴバーの店長と、中華料理店で出会った偶然。 ここからもう仕掛けられてた。 俺はコンビニのチャーハンが好きで、店では食わないのに 妙に食べたくなったし、ライヴバーの店長は普段は中華料理は 食べないのに、急に店に入ったそうです」 「機関が......人の意識を操作したんですか?」 「そんな大層なことじゃないですよ。 ちょっと心の背中を押して気持ちを向けさせるだけです。 人を完全に操ったりしたら、それこそ規約違反ですからね。 自分らで厳しい法則を作り上げてて、それ以上のことはしません」 「はぁ、なんていうか、すごいし、堅苦しいんですね」 「機関を取り仕切ってる神様がね、事情持ちだからねぇ、 そこは汲んであげてよ」 猪熊さんがお茶をすすりながら話しに入ってきた。 「事情?神様に?」 「そう、事情。 私がポンちゃんを店で雇ったのも、放っておけなかったから。 それも事情あってのことさ」 急に猪熊さんが切なげな顔をしてきた。 いままでに見たことのない表情だった。
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