第二部 猫と探偵と高円寺

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そんなことがあった翌日。 「あれ?店長だけですか?」 お店なので、きっかり12時にお昼休憩というわけにはいかない。 交代制だったり、お客がいなければみんなで食べたりだけど 休憩室の自分のデスクに座ってる猪熊さんは、お好み焼きを 頬張っていた。 「きひろふんはっはっ、ひっ、あちっあちちちっ......!」 「猪熊さん、食べながら返事しなくてもいいです。っていうか、 イノシシなのに猫舌なんですか?」 「ポンちゃん、言うようになったねえ。 これね、新しくできたお店のやつ。 焼きたてが買えたんだけど、熱すぎてビックリしちゃったよ」 「あぁ、あそこですか。高円寺は店の移り変わりが激しいですよね」 「そうだね、おいしいよこれ。で、キイロくんは配達に行ってて、 八木さんはたまってるのを片付けたいって、まだ頑張ってくれてる」 「すごい!あたしもササッと食べて、仕事しよう」 「ごはんは、ゆっくり食べなきゃダメだよ。あちっ、まだ、あちっ」 「店長こそ、ゆっくり食べてください。 あ、ゆっくり聞いていいですか?」 「なに?」 「神様って、結局はなんなんですか? 人間が信仰してるようなものとは違うんですよね?」 これこそ2人きりでないと、できない会話だ。 あたしはコンビニで買ってきたパスタをフォークでからめながら 質問してみた。 「うーん、そうだねぇ。 たとえるなら『社長さん』みたいなもんかなあ。 なんかえらいけど、えらさの度合いも規模もそれぞれだし、 力の差もそれぞれだし。 マヌケもいれば嫌味もいるし、優秀で部下思いのタイプもいる。 世界に極端には影響は与えないけど、大きくつながってる」 「おっ、わかりやすい。要するに上に立つ者ってことですね」 「そういうこと。 たとえば生まれつきの家系から引き継ぐ場合もあるし、 自分で立ち上げて努力や実力で地位が上がる場合もあるし、 仕切れるのが大なり小なりだし」 「うんうん、なんかわかる気がしました。ありがとうございます」 フワッとだけどスッキリしたあたしは、パスタをズルズルと すすりながら食べた。 「ポンちゃん、パスタをフォークでクルクルするのできないよね」 「あたしはこうして食べるのが好きなんです!」 「ホントかなあ?」 「これはホントです! あー、あの、落合さん......七空村? 規模としてはどうなんですか?  なんだか家系で引き継ぐのはわかったけど」 「あそこはね......日本一、小さな村だよ」 「え?」 「だって、長の家ひとつだけ。それだけだから」 「は?それで、村って!」 七空村の神様は妖怪の変化、なんだか良くないものっぽい。 でも弟さんに仕えるという猫の少年は、禍々しさはなかった。 こちらに関しては、まだまだわからないことだらけだ。
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