第二部 七空村

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「兄さん、ニホンザルって、すごく利口なんだそうだよ。 ほら猿に芸を仕込んだりするだろ? 簡単な計算もおぼえるんだって。すごいね!」 日常に猿がいて当然の生活になった日々において。 藤生は、動物そのものに興味を抱き、元からの頭の良さで 勉強に励み、獣医になりたいという夢を持つようになった。 「タヌキとかキツネとかイノシシがいなあ。猿は見飽きたよ。 っていうか、おかしくないか?あいつら、七匹もくるなんてさ。 うちの名字の七空と同じってのが、なんか引っかかるんだよ。 それに、なんで百日紅を植えたら来たんだろう? 登りやすい木なら他にあるのにさ。 ほら、奥のほうにある桜の木とか、木の幹が低く広がってて 登りやすいじゃん。そっちにすればいいのに、何があるんだろう」 子供部屋の窓からみえる百日紅を眺めて、俺は眉をしかめて言った。 ちなみに幹の低い大木の桜は『シダレザクラ』なのだと。 後になって知った。 「すごいよ兄さん!なんだか探偵みたいでカッコイイ!」 「はあ?」 その発想はなかったので。 驚きつつも、内心では褒められたようで照れていた。 何をしても俺より優秀な藤生に対して、嫉妬も多少はあったからだ。
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