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 いくつもの露店が軒を連ね、多くの人々が明かりに照らされた夜道を歩む。  今日のルギーバの町には、活気が満ちていた。  ここは普段であれば、夜の帳の訪れと共に静けさに満たされる穏やかな土地になるのだが、今宵は祭り。人々は豊穣と繁栄を願い、町を彩り外に出てこの夜を過ごす。  そんな風景を物珍しそうに眺めながら、ノナは町の中を歩いていた。  毛先に少し癖のある、黒髪のミディアムヘア。澄んだ空色の瞳は優しげで、芯の強そうな雰囲気がある。  年の頃は、人間で言えば16、7といった程度。四肢は細く適度に鍛えられているが、少し肉付きが薄いきらいがあるだろうか。  そして、その白い肌と先の尖った耳は、彼女が人間とは違う種族である事を示している。  旅する魔族の少女。それがノナの肩書だった。 「アンタも好きよね。わざわざニンゲンの祭りに顔を出すなんて」  歩むノナの傍らで、フェマが告げる。  その容姿はニンゲンでいえば、15、6といったところだろう。浅黒く艷やかな肌に、肩に届きそうな銀の髪のポニーテール。その肢体は細く均整が取れ、アメジストのような紫瞳は、挑発的な色を纏っている。  フェマはダーク・フェアリーと呼ばれる種族であり、その身の丈は成人男性の掌程度しかなく、そしてその背には、黒曜色の一対の羽が煌めいていた。 「そうですね。こういう雰囲気、私は好きですよ」 「ホントに?」  ノナの言葉に、フェマは疑問を投げる。 「カップルの群れとナンパの連続、鬱陶しくない?」 「それは、えっと……。少し……」  周囲に少し遠慮して、控えめな声でノナは答える。  少し周囲を見てみると、仲の良さげなカップルの姿がちらほらと。  そして今夜、ノナとフェマは既に4度、ナンパをお断りしていた。  ちなみにナンパの件は、2人が人混みを避けるために路地裏を通った事が大きな要因になるのだが、何にしても、執拗なナンパが迷惑な事に変わりはない。 「ま、ワタシは面白かったらいいんだけど」  フェマは腕を組み、眼前の広場を見据える。  そこにはいくつもの出店が軒を連ね、商いに精を出していた。 「お肉にお酒に蜂蜜漬け。悪くないわね」  立ち並ぶ幟を見て、フェマは笑みを浮かべる。  ちなみに、大抵の食品はフェマひとりで完食することができないため、ノナとシェアをする事になる。ただ、ノナの食は細く、立ち寄れる店の数は限られるため、立ち寄る店を決める話し合いは、2人のちょっとした楽しみだった。
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