第32話 剣を捧げた主人は──

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 二年前──。  私が記憶を失った事件となれば、エルバート王子の王太子授与式だ。  本来なら突如魔物の襲撃によってローザは死亡、エルバート様は片腕と片目を失う。その未来を書き換えたことで──あの時に、歪が生じた?  ああ、そうか。  歪みから這い出てきた存在を見た瞬間、全てを思い出す。  あれは──別世界のアメリア()の慣れの果て。間違いなく闇堕ちしたラスボスじゃない! 二年前もアレが出てきたんだったわ! 「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――――!!」  なんて声!?   これだけで王都中の硝子が砕かれ、黒々した炎が都市を包む。  漆黒の泥と共に人の形をした化物は喪服めいた服で角は七本、蝙蝠と天使の羽根を三対六翼羽ばたかせている。全長三メートルを超える姿は、世界を終わらす魔神そのものだ。 「もしかしてウィルフリードが敵対していたのは、魔神と拮抗するだけの力を──」 「アメリア、最後に貴女と剣を交えることができて幸福だった。あの魔神の狙いはアメリア、君だ。取り込まれる前に俺が《次元の迷宮》の門を開いて、魔神を道連れにする」 「は?」  何を言っているのだろうか。これだから忠義がクソ重い奴の考えはどこまで愚直だ。  推しが別世界の私と共に《次元の迷宮》に?  え、なんでそんな馬鹿なことをサラッというのかしら。 「却下。あんなの覚醒した私が──」 「駄目だ! それで攻撃して自分に跳ね返ったのをお忘れになったか!」 「あ」  忘れていました。そうだわ。  私の攻撃もそうだったけれど、この世界にアメリアが二人いることで同一の存在として全ての攻撃は私に返る。  あー、なんで勝てなかったのか分かったわ。うん。強いだけじゃどうしようもない。 「ええっと……ウィルフリード。二年間、どうにかしようと考えた結果が、アレを巻き込んで自分も《次元の迷宮》に落ちる……と?」 「ああ」
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