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第34話 騎士団長ウィルフリードの視点3
茨を媒介に使って魔神と化したアメリアの魂と接触し、対話を試みるなんて相変わらず予想の斜め上をいく。
アメリアは昔から優しいのだ。自分の手が届く範囲で、何ができるかを考えて手を差し出す。それは一歩踏み出す勇気であったり、奮い立たせる言葉であったり、相手の問題を軽減する物だったり、……お人好しだ。
甘っちょろいかもしれないけれど、俺は嫌いじゃない。
魔神の固く閉ざされた心が、今ようやく解放される。俺には魔神の姿が幼い頃のアメリアに見えて、衝動的に抱きしめたくなった。
嬉しそうに微笑む二人に魅入っていたせいで、茨の中から飛び出してくるリリスに気付くのが遅れた。刃を貫かれて崩れ落ちる彼女を見た瞬間、心臓が止まるかと思ったほどだ。
『ああ、いや、いやよ、いやあああああああああああああ』
リリスに悪夢魔法を使ったアメリアは体を傾けて倒れそうになる。
「アメリア!」
慌てて抱きかかえた。すでに魔神だったアメリアは光の残滓が浮遊して消えつつある。ぐったりとしているアリシアの姿を見た途端、不安になった。
「だい……じょうぶ……ちょっと、眠く……なった感じ」
腕の中でアメリアは身動ぎしながら胸元に体を預ける。そんな些細なことさえ嬉しくて口元が緩んでしまう。再び傍にいられることがこの上なく幸福なのに、『もっと』と渇望する自分があまりにも浅ましい。
「少し……眠るから……ウィルフリードは……先に起きても、私の……傍に……いてくれと……」
「アメリアが望むのなら願ってもないことだ。今度こそ、君の傍を離れない。君の剣として傍にいさせてくれ」
アメリアは小さく笑って、瞼を閉じた。一瞬、ドキリとしたが規則正しい呼吸音を聞いて安堵する。
「帰ろう。みんなが待っている」
返事はなかったけれど、頷いてくれた気がした。
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