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俺の前に飛び出してきたのは、ルイスとローザだった。大人びた姿ではなく十歳に戻っている。安全な場所に移したはずでは?
転移魔導具を使って、ここまで戻ってきたというのか?
「魔王アルムガルド殿、そして死神エーレン殿。子供たちの言うとおり、ウィルフリードはアメリアの婚約者であり、娘に忠誠を誓った騎士だ」
「……ナイトロード公爵」
「二年前の一件から今回の出来事に至るまで辛い役回りをさせてしまった。ウィルフリードは、一度だってアメリアを裏切ってはいない」
アメリアと同じ蜂蜜色の短めの髪に、強面かつ切れ目な見た目のため恐懼公と呼ばれているほどだ。しかし実際は愛妻家で、領民たちからの信頼も厚いよき領主である。
貴族服に身を包んでいるが至る所に包帯が目立つ。恐らく復活してから休むことなく働いていたのだろう。
ここに駆けつけて、自分を庇ってくれたことに胸が熱くなる。
「君が色々準備をしていたというのに、いざという時に役に立てなくて申し訳ない」
「いえ……。俺がもっと上手くやれていれば、アメリアを傷つけることなく決着を付けられた」
「そうだな。君でない誰かがもっと上手くできたかもしれない。君が危険を冒す必要だってそもそもなかったのかもしれない。……でもあの場に居たのは君だったし、君だったからこそ今の結果がある。私の娘を守り続けてくれてありがとう」
「──っ」
報われなくていい。
怨まれて憎まれて、裏切り者の烙印を押されて、あぜ道で野垂れ死んでも耐えられると思っていたし、それだけのことをしたと理解している。
アメリアはもちろん、ルイス、ローザ、ナイトロード公が俺を許すとは思っていなかった。どこまでも懐が深い。
「我が出るまでもないようで、なにより」
俺の腕の中のいたアメリアが突如声を上げた。
しかしその声音は、アメリアとは思えないほど酷く平坦なもので、一瞬で始祖ナイトロードだと理解する。
眷族である吸血鬼族は当然のように片膝を突いて深々と頭を下げた。真紅の瞳は周囲を見渡す。
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