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難癖をつけて来たのは、長い顎髭が特徴的な宰相のディルカディオだった。出たわね、タヌキ爺。周りをよく見れば人類至上主義を謳う貴族ばかりだわ。
「これだから人外貴族は信用ならなかったのだ!」
「これを機に断罪すべきだ!」
「吸血鬼の末裔にして公爵家の長女アルヴィナ・ナイトロード、今度ばかりは言い逃れはさせんぞ!」
どうあっても人外貴族を《悪しき者》にしたいようね。本当に腹が立つ。
向けられる敵意に毅然とした態度を貫きつつ、扇で口元を隠しながら悠然と微笑んだ。ちょっと歪んだ笑いでも、扇子に隠れてきっと見えないはず!
「そこまでおっしゃるのなら、教会の誓約書に賭けて無実を主張しますわ」
「あからさまな時間稼ぎなどで、この場を逃れようとするのか! 衛兵!」
「あら、こんなこともあろうかと教会から誓約書を発行して貰っていたのです!」
胸元に手を突っ込んで、一枚の羊皮紙を取り出した。
「なんてはしたない!」
「どうせ偽物だ!」
「衛兵! 急いで、あの娘を捕えよ!」
この際、破廉恥だと言われようが構やしない。衛兵たちが慌てて止めようと手を伸ばすが、床を蹴ってシャンデリアの上に飛び乗ったことで逃げ切る。危なかった!
どうあっても現行犯として取り押さえたいようね!
私は限りなく人間に近いが、それでもこのくらいの身体能力はあるのだ。我ながら猫のようにしなやかに動けたと自画自賛しそうになる。
オレンジ色の光を下から浴びつつ、私は高らかに宣言した──はずだった。
ズキン。
強烈な激痛に足がふらつき、バランスを崩した私はシャンデリアから滑り落ちる。
受け身を──。
そう動こうとしたが、身体に激痛が走って動けない。
「アメリア!」
「──っ」
私を抱き止めたのは、王国第三騎士団の団長であり私の婚約者──ウィルフリード・エル様だった。白銀の長い髪に、琥珀色の瞳。一対二枚の白い翼を広げた天使族であり、美しいだけではなく清廉潔白、品行方正の真面目を絵に描いた男だ。
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