第1話 破滅の音

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 人外貴族でありながら、天使族だけは神の使いとして優遇されてきた。今もウィルフリード様に悪感情を持つ者はいない。同じ人外貴族なのに、美しい姿に白い翼があるからだとしたら狡いわ。私だって頑張れば蝙蝠ぐらいの羽根は生やせるのに、人気は皆無だ。 「心臓が止まるかと思った。どうして君は無茶ばかり……」 「ごめんなさい……」 「アメリア、君……」 「?」  じゃら、と腕首に見慣れないブレスレットを付けているのが見えた。ウィルフリードの趣味にしてはお洒落なデザインだ。基本そういったアクセサリー系は付けないが、付与魔法とかが付いているのかしら? 珍しいわ。  少しだけ頭の痛みが和らいだけれど、違和感が残る。 「それで、ディカルディオ殿、俺の婚約者が何をしたというのですか?」  ゴゴゴゴッと背後から燃え盛る炎が見えそう。いつもは冷静沈黙なのだけれど、私のこととなると途端に熱血直上型になってしまう。そんなところも素敵だ。 「ウィルフリード殿、なぜこちらに!?」 「なに、婚約者の危機に現れるのは当然だろう? それとも貴公は俺の婚約者かつ公爵令嬢にどのような理由があって『衛兵に捕らえよ』と言ったのか」 「それは……ですな」  言い淀むディカルディオが手で口元を覆った瞬間、再び身体に激痛が走る。頭だけではなく身体中が痛い。体内の魔力が暴走しているのかコントロールが利かない。  幼い頃に魔力が多すぎて熱を出した感覚とは違う──強制的に、──っ。  考えが──まとなら──。 「あああああああああああ!」 「アメリア!?」  ギュッとウィルフリード様が抱きしめてくれているのに、体がどんどん冷たく凍っていく感覚に身慄いした。  熱い。痛い。苦しい。  その感情が大きく揺れ動き、私の背中から漆黒の蝙蝠の羽が生じた。  そこからは曖昧で、風を切る音の後にガラスが砕け散って、悲鳴と怒号。  朦朧とした意識に中で、傷だらけのウィルフリード様に抱き寄せられた私は、ディカルディオが下卑た笑みを浮かべている姿を最後に、意識が途切れた。  ウィルフリード……様。  ***  次に目覚めた時、長い黒髪に眼鏡のいかにも生真面目そうな男が司祭服姿で立っているのが見えた。  私は……? 「公爵令嬢アメリア・ナイトロード。第三王国騎士団団長ウィルフリード様より婚約破棄の書状を預かってきた。速やかにサインをしていただけないだろうか」 「──っ」  神殿の独房で目を覚ました直後に、イアン枢機卿が静かに告げた。
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