177人が本棚に入れています
本棚に追加
第1話 破滅の音
「アメリア・ナイトロード、よくも未来の婚約者となるリリス嬢に酷い仕打ちをしてくれたな。公爵令嬢の立場を悪用しての所業、この場でウィルフリードに変わって婚約破棄を言い渡す!」
「きゃー。スチュワート様ステキ☆」
「フッ、これでリリス嬢が酷い目に遭うこともなくなるはずだ」
「スチュワート様。……っ、ありがとうございますぅ」
「リリス嬢!」
この国の第三王子スチュワート様と、リリス嬢はヒシッと抱きしめ合う姿に怒りよりも呆れてしまった。
頭に蛆でも沸いたのかしら? あら大変。
会ったこともない令嬢をどうやって傷つけるというのか。そもそもスチュワート殿下は私の婚約者でもないのに、何勝手に婚約破棄って大問題なんじゃ?
うーん、とっても頭の痛い話なのだけれど、第三騎士団長のウィルフリード様が急な所用でパーティー参加が遅れると連絡を受けていた以上、ここで事を荒立てるようなことは極力控えたい。かといって黙っていれば肯定と受け取られかねないわね。どうしましょう。
「黙っているってことは図星ね! だいたい勇者が勝手に魔王を勝手に討伐しちゃうし! 本編シナリオが始まる前に色々可笑しいのよ! それもこれも悪役令嬢である貴女の策略なのでしょう!」
「リリス嬢、少し落ち着いて。……ああ、そうだ。せっかくだから飲み物を飲んで落ち着こうか」
「まあ、スチュワート様。なんてお優しいの!」
「リリス嬢」
またしてもひしっと抱き合っている。
もう帰ってもいいかしら。エルバート様を待っていたかったけれど、帰りたいわ。
何なのかしら、この茶番……。アクヤクレイジョウって何よ?
周囲はコソコソと何か話しているけれど、壁際にいる私には聞こえない。会場の空気も何だか妙だった。
他の人外貴族の姿がないのも引っかかる。
人外貴族。
人と異なる種族──吸血鬼族や鬼人族、獣人族、人魚族の他種族を指し示し、瘴気のある土地でしか生きられない魔族とは異なるのだが……人間にとっては魔族の人外貴族の一色単にされやすい。
違和感を探ろうとした矢先、ガシャン、と硝子細工が砕けた音が会場内に響いた。
「うっ……ああっ」
「リリス!」
口から血を流して崩れ落ちたのはリリスで、それを第三王子スチュワートが抱きとめる。場は一気に騒然となった。治癒魔術師やら衛兵が駆けつける中、まるで予定調和のように皆の視線が一斉に私に向けられた。
「先ほどのワインは、ナイトロード領の物だ。どうせ全てのワインに毒でも混ぜたのだろう!」
「──っ!?」
最初のコメントを投稿しよう!