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復活のカプチーノ
好きなアイスのフレーバーはカプチーノだ。
スカしてると言われそうだが、明確な理由がある。
十代後半の頃、好きなサッカー選手がいた。
当時の自分よりも五~六歳ほど上の青年で、当時は恋と錯覚していた。いま振り返ってみれば「親近感」の方が近いかもしれない。
彼は、暗い印象の男だったのである。
プロサッカー選手の大方の印象は、
良く言えば「華やか」
悪く言えば「軽薄そう」や「パリピ」
偏見まみれの個人的感想だが、遠からずといった印象ではないか。
私の「推し」は、暗かった。
重たい前髪が瞳にかかるほどで、表情が判然としない。ロンブーの淳似と言われていたが、キャラはまるでちがう。大口を開けて笑う姿は記憶にない。
最近のサッカー選手はスラッとしているが、彼はちがう。発達した大腿筋が目を引くずんぐり体型。マラドーナ系とでも言おうか。
特徴的だったのが、声。
野太く低い声でボソボソと喋る。
数十年経った今でも、あの声はよおく覚えている。うん、暗かった。
そんなJリーガーっぽくない彼は、鮮烈なデビューだった。
当時、チームには絶対的エースが存在した。
最下位が定位置のチームで一身に期待を浴び、罵倒もされていた。誇張でなく、孤軍奮闘の図に見えた。実際は他の選手あってこそだが、チームが弱すぎたのだ。
そんなエースが負傷し、代わりに抜擢されたのが彼だった。
就任間もないドイツ人監督は慧眼の持ち主で、後に代表でも輝かしい記憶を残す岡野雅行をはじめ、訓練生だった彼もレギュラーに抜擢した。
その年、優勝した横浜M戦において、彼は目覚ましい活躍を見せた。
試合の模様が掲載された雑誌の記事はスクラップし大事に取ってある。「シンデレラ・ボーイ」、「ラッキー・ボーイ」の文字が躍る。実力で得たのだから失礼だが、本当に度肝を抜くデビューだったのだ。
派手なデビュー後も、彼は地味だった。何度も書いてすまない。
同期入団の選手がもう一人いたが、こちらはイケメンで後に代表入りも果たす。からかい調で「引き立て役」と書かれたり、いまなら炎上しそうな扱いも受けていた。私はイケメンの方は好きではなく、引退後に規約違反でチームと絶縁した時も悲しくなかった。やらかしそうな男だったのだ。
彼がどんな果てを辿ったのか、よくは知らない。大怪我をしたこと、下部リーグに移籍した記憶があるが、知ったのはかなり後だ。
薄情だと思われるだろうが、当時はネットどころか携帯電話もない時代。よほどの有名選手でない限りは去就が騒がれることもない。先述のエースは全国版のテレビ番組で涙の引退会見が放映された。だって、エースだから。それだけのことだ。
あの頃、サッカー雑誌は若い女子をターゲットにした内容も多かった。
人気投票、オフショットやプライベートの質問コーナーもあった。どの雑誌かは忘れたが、ある日、彼が載った記事を読んだ。
「好きなのは、ハーゲンダッツのカプチーノ味」
渋い回答。
彼の大人な回答に、子供だった私は酔った。いまほどは身近になかったハーゲンダッツが神格化されたのは言うまでもない。
そんな神のアイスとの出会いは偶然だった。
ある日、付き合いで行ったカラオケ店で、気のいい先輩がアイスを奢ると言い出した。何気に見たメニューに、まさかのハーゲンダッツ・カプチーノ味が!
皆の歌などそっちのけでアイスを噛みしめた。
ほろ苦い、大人の味だった。
いま、ハーゲンダッツのカプチーノ味は恐らく販売されていない。
代わりに、今夏、私を虜にしたのは、ロッテCOOLISH『復活のカプチーノ』。アイスの系統としては大分ちがうが美味しいことは同じ。
復活の、とは再販を意味していだけだが、なんとなく思い出を復活させる私であった。
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