ほうそう、ほうそう。

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 ***  その当時、私が好きだったのはホラー系の二次創作小説である。  なお、今から十年以上前なので、この頃私が持っていたのはまだガラケーだったと言っておく。いろいろな携帯小説サイトが流行し、好きな漫画の二次創作とかを読み漁るのが趣味だったのだ。  携帯はいい。学校にも当たり前に持ってこられるし、漫画と違って没収される心配もない。  重たいPC用のサイトが表示されないことがあるのだけが悩みだったが、携帯向けの小説サイトならその心配もない。  その当時流行していた“白羽(しらは)のサッカー”という漫画の二次創作小説を、私はトイレの個室の中でひたすら読み漁っていたのだった。九月。今日は少しだけ暑い。エアコンがないトイレの中は快適とは言えなかったが、それでも真夏と違って耐えられないほどではなかった。  最近ハマっているのは、白羽中というサッカー部のメンバーが学校で怪事件に巻き込まれるという、ホラー系の二次創作小説である。この白羽のサッカーという漫画は有名な雑誌に掲載されていたが、二次創作ガイドラインをきちんと明示していることもあり、極端なヘイト創作やキャラヘイト創作でなければ自由に二次創作をしていいですよと許可が出ているものだった。そのため、ホラーやサスペンスといった、恋愛小説とは毛色の違うジャンルも大流行していたのである。 ――七不思議、いいなあ。  画面をスクロールしながら私は思う。 ――学校っていう日常の中に潜んでいる怪異。オバケとか、異世界への入口とか。うちにもそういうの、ないかな。あったらこんなつまんないセカイじゃないところに行って、もっともっと面白いもの見られるのにな。  そういえば、うちの学校にも怪談らしきものがあったような。以前、クラスメートのカヤちゃんがそんな話をしていたような。なんだっけ、と私が思い出そうと顔を上げた時、遠くで夕焼けこやけのメロディーが聞こえ始めた。 「あー……」  防災無線のチャイムだ。携帯に表示された時間を見る。  午後五時。さすがに、そろそろ家に帰らなければいけない頃合いである。 「やだなあ……」  最近帰りが遅い、本当に勉強してきてるの?と母に疑われているのは事実である。学校にいるのは嘘ではないが、勉強しているというのは嘘。これ以上遅く帰ると、またぐちぐちとイヤミを言われてしまうかもしれない。  仕方ない、帰るか――と携帯をポケットにしまう。バッグの類は邪魔なのでトイレの前の廊下に置いてあった。あれも取りにいかなければ。  そう思った、その時だった。  ピンポンパンポーン、と。  たまに耳にすることのある、校内放送のチャイムの音が。 『みなさん、みなさん、みなさん、みなさん』
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