ほうそう、ほうそう。

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 音が大きくなってきた、と思った次の瞬間。何かが窓に叩きつけられるような、衝撃音に変わった。  ばん、ばん、ばん、ばん!  さっきまでとはうってかわって、人間が窓にはりついて窓ガラスを掌で叩いているような音。何か、よくわからないものが窓の外にいる。入ってこようとしている。鍵が開かないからなのか、他に理由があるからなのか。開けろ、開けてくれと訴えてきているのがわかる。  そして。 『あけてよお』 「ひいいいいいいいいいっ!?」  今度は、ねばっこい響きで、別の声が木霊した。窓とは反対側。廊下側のドアの方からだ。  低い女の声で、うらみがましくぶつぶつと呟いているのである。 『あけてよお、かえってきたんだよお。ただいま、あけてよお。ここ、ここなんだよお。あけてよお。いるんでしょお。あけてよお、ねえ、ただいま、あけてよお、ねえってばあ……』 ――なんなの。 『あけてよお、あけてったらあ……』 ――なんだってのよ、ねえ……!?  左からは、窓を叩く音。  右側からは、開けろと訴える女の声。  私はトイレの奥の壁に張り付いて、ガタガタと震えていた。何かの悪戯だなんて、もう思えなかった。何か、自分が想像もつかないような何か異様なことが起きている。きっと、あの謎の放送があってからだ。あの瞬間、この世界は何かが変わってしまった。  もしかして私が、異世界に行ってみたいとか、刺激的なことが起きて欲しいなんて願ったから?だから、罰を受けたとでもいうのだろうか。 「やめて……!」  か細い声で、私は訴えた。 「もうやめて……!ちゃ、ちゃんと勉強するから、悪いことしないから!お願いだから、もう、やめて、帰して……っ!」  バリン!  破壊。  窓硝子が砕け散る音が、聞こえた。同時に、がさがさがさ、と大量の蜘蛛が這うような音。がりがりがり、と床をひっかきながら、何かがトイレの中に雪崩こんできたのだ。  同時に。 「あけろって言ったじゃん」  ドアの向こうできこえていた声が、やけに近くに聞こえた。そう、私の耳元でだ。  まさか、と思って私は首を右に傾ける。そして気づいてしまった。  右側の壁から、女の顔が生えている。そいつがじいっと、血走った眼で己を睨んでいるのだ。 「ただいまぁ」  彼女がにたあ、と大きな口を開けて笑った、瞬間。  私の心が、限界を迎えていた。 「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああ!誰か、誰か助けて、助けてええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
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