いつか世界が気づくまで

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 ある日の昼休み、僕は山さんに呼び出された。 「川島。お願いがあるんだけど」  そう言って山さんは四角い包みを僕に渡して来た。可愛くラッピングしてある。 「受け取って欲しいってこと? 悪いね。サンキュー」 「ざけんなっ! 誰が川島なんかにあげるかっ! これ用意するのにどんだけ苦労したと思ってんだっ!」  山さんが真顔で凄んで来る。マジの山さんはそこいらのチンピラよりずっと怖い。 「じょ、冗談だよ。何これ?」 「今日、加賀先輩の誕生日なの。渡してきてくれない? お願い!」  深く頭を下げて懇願する山さんに僕は慌てた。 「こんなのあげたら、僕が告ってるみたいじゃん! 男から告られたら、加賀先輩もびっくりするって!」 「いや、だから~! もーう頭悪いなぁ! 『女子から頼まれました』って言えばいいじゃん!」 「なるほど。でも、これ名前も書いてないから、『女子から』って言われても山さんだってわからないよ?」  何しろ加賀先輩はモテるのだ。今日は複数の女子たちからプレゼントをもらっているに違いない。そんな渡し方では絶対に誰からだか伝わらないはずだ。 「良いのよ! それで!」  山さんは不機嫌そうに唇を尖らせた。 「そんなの悲しくないか? せっかくプレゼント贈るのに名前も名乗らないなんてさ」 「でも・・・」  山さんの気持ちはわかる。プレゼントが自分からだとわかって怖がられたくないのだ。でも、そんな気の遣い方ってしなきゃならないものだろうか? 「勇気出せよ? 加賀先輩だって嫌がったりするような人じゃないと思うよ?」  しかし、山さんは無言のまま廊下の床のすき間にうじうじと視線を落としている。まるで自分の心の闇をのぞき込むように。  乙女なのだなぁとしみじみ思った。ゆるキャラが叱られて落ち込んでいるようにも見える。  その姿を目にしていたら、余計名乗らずにプレゼントを渡しちゃいけない気がした。 「じゃあさ。ローマ字でRISAってだけ書かないか? リサって名前この学年だけで何人かいるし、学校全体だったら絶対特定できないからさ」  すると山さんはこくんとうなずいた。 「・・・わかった。ありがとう」  プレゼントの包装紙の隅に、From RISAとボールペンで丁寧にちっちゃく書くと、山さんは僕に渡した。すがるような眼差しでいう。 「お願い。ちゃんと渡してね」 「わかった。任せろ」
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