いつか世界が気づくまで

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 僕には同い年で幼馴染の親友がいる。  彼女の名前は山寺理沙。17歳の女子高生だ。  こういう書き出しをすると、それだけで僕を袋叩きにしたくなるほど嫉妬心に駆られるやからが少なからずいる。  待ってくれ。  ここは冷静になろう。  僕の立場は微妙だ。  第一に彼女は「リサちゃん」とか「山寺ぁ」とか呼ばれるキャラじゃない。小学一年生の頃から「山さん」と呼ばれている。まるでベテラン刑事のように。  幼稚園の頃は「リっちゃん」と呼ばれていた。しかし、彼女の普賢岳のように威厳を感じさせる風貌が、卒園と同時にそんな可愛らしいニックネームで呼ぶことを小さなお友達にためらわせるようになった。  第二に山さんは強い。僕なんかよりもはるかに強い。重量級の柔道選手としてインターハイにも出ている。虚弱な僕が山さんを守るシチュエーションは未来永劫巡ってこない。  むしろ守られている。山さんと一緒に歩いているとヤバそうな奴らが皆んな道を開ける。男の僕としては複雑な気持ちだ。  第三に山さんには好きな人がいる。三年生の加賀直人先輩だ。色白ですらっとしていてピアノが上手い。僕にはカッコ良すぎて別の生き物みたいに親近感を感じられないけど、山さんは夢中だ。  加賀先輩のことを語るとき、山さんの瞳には星が三つくらい瞬いている。  以上三点からもわかるように僕が袋叩きにされる(いわ)れはない。  しかしながら、山さんがただ怖いだけの女子なのかというと、そうではないのだ。  山さんの性格がその外見に反して超絶乙女であることを僕は知っている。  女性アイドルが好きで、よく動画を見て振り付けを真似して踊ったりしている。アイドルの服装やメイクもマメにチェックしている。  ただし絶対にその服を買って着ることはないし、メイクを真似ることもない。似合わないのがわかっているのだ。  サンリオには眉をひそめ、ディズニーを愛し、青春系アニメを熱心に視聴している。  SNSはこわごわと見て、けして投稿せず、クラスメートの自分に対する心ない風評(そのほとんどが根も葉もない武勇伝だ)に胸を痛めている。  そして加賀先輩に気取られないよう(怖がられたくないから)熱烈かつ密やかな片想いを現在継続中。  山さんのこのような乙女な内面を知る人はごく少数だ。山さん自身がキャラ崩壊を恐れて隠しているから。  そんな山さんを僕はちょっと気の毒だなぁと思って眺めている。  本当の山さんは「りさぴょん」とか呼ばれても全く違和感なく「ハーイ!」と明るく返事を返すような女の子なのだが、現実はなかなかに厳しい。僕が知る限り「りさぴょん」と呼んでくれるのは山さんの飼っている九官鳥だけだ。  前に一度僕が「りさぴょん」と呼んだら、「同情しないで!」とキレられた。幼馴染に対する乙女心は複雑らしい。
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