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それから数週間後の事だ。そろそろ午前1時だ。閉店の時間になった。今日もたくさんの人が来て、ラーメンを食べて行った。いろいろあったけど、明日からまた頑張ろう。
勇夫はいつものように店の明かりを消して、暖簾をしまっている。帰ってきてからずっと任されている。すっかりそんな日々に慣れてきて、智からも信頼されている。そう思うと、これからもっと頑張らなければという気持ちになれる。
「今日も疲れたな」
勇夫はため息をついた。今日も疲れたけど、11時からまた仕事だ。頑張らないと。
勇夫は誰かの気配を感じ、振り向いた。そこには文香がいる。文香はどこか元気がなさそうだ。先日飲みに行った時と全く違う。どうしたんだろう。
「あれっ!? 文ちゃんじゃないか?」
勇夫を見て、文香は下を向いた。何があったんだろう。話してほしいな。
「どうしたの?」
「まともな仕事に就けないのなら、家から出て行けと言われたの」
それを聞いて、勇夫は驚いた。親がそんなひどい事をするなんて。そんな事をする親なんて、親じゃないだろと思った。
「えっ!? そんな・・・」
そこに、両親がやってきた。勇夫の声を聞いて、ここにやって来たようだ。
「どうしたんだい、って文ちゃん?」
智は驚いた。どうしてここに文香がいるんだろう。家にいるはずなのに、どうしたんだろう。
「うん。家を追い出されちゃったんだって」
「そんな・・・」
三枝子は絶句した。こんな親がいるんだな。あまりにもひどすぎるじゃないか。
「ひどいと思うわ」
「そうだな。大丈夫?」
智は文香の頭を撫でた。文香はほっとした。ここなら何とかしてくれそうだな。
「うん」
ふと、勇夫は気になった。どうしてこんなに元気がないんだろう。家を追い出されたからだろうけど、まだまだ理由があるのでは?
「なんか元気ないじゃん!」
「朝から何も食べてないの・・・」
それを聞いて、勇夫は驚いた。朝から何も食べていない上に、お金を持っていないとは。こんな事されるなんて、あまりにもひどすぎる。
「そんな・・・」
「本当に大丈夫か?」
智は文香の肩を叩いた。文香は少し元気が出たが、朝から何も食べていないためか、すぐに落ち込んだ。これは早く食べさせないとだめだな。そう思った智は、家から厨房に入り、何かを作り始めた。
「わからない」
勇夫は文香を抱いた。文香は泣きそうになった。あの時、抱きしめられた時と一緒だ。だけど、いつも以上に比べて温かみを感じる。どうしてだろう。
家に入った文香は、ダイニングの椅子に座っている。やっと家の椅子に座れた。それだけでほっとした。やっと寝る場所を確保できそうだ。低賃金だけど、仕事を頑張っている。それなのに、どうしてこんな事をされなければならないのだろう。
「まぁ、父さんがチャーハン作ったるから食べな」
文香は笑みを浮かべた。お腹がすいている自分に、チャーハンを作ってくれるとは。本当に優しいな。
「ありがとう」
三枝子は寝室に戻っていった。勇夫はその後もここにいる。文香が心配でしょうがないようだ。
「なんでこんなひどい事を」
智は厨房でチャーハンを作っている。厨房からはチャーハンのにおいがする。
「父さんも信じられない?」
「うん」
智は真剣な表情だ。これは両親に注意しなければ。それでも親なのかと聞きたい。今すぐ、連れて帰りなさいと言わなければ。
「親がこんなひどい事をするなんて」
「俺も信じられんわ」
勇夫も同感だ。親がこんなひどい事をするなんて。これは注意しなければならないだろう。
「まともな仕事に就かないからこうなったの。だから仕方ないの」
だが、その原因は自分にあると文香は思っている。自分がもっとまともな仕事に就かないから、こうなったんだと。結局は自分が悪いんだ。結局自分が怒られるんだ。
「そうだけど、ひどいよ」
「で、寝る所がないの」
文香は悲しそうだ。寝る所さえ確保できない。野宿にしようと思ったけど、初恋相手の勇夫なら、なんとかしてくれるだろうと思い、ここにやって来たのだ。
「大丈夫大丈夫。ここで寝なさい」
「ありがとうございます」
文香はほっとした。ここで寝られる。それだけでも本当に嬉しい。とりあえず、野宿になる事は逃れた。
「まったく、こんな親がいるもんだね」
智は厳しい口調だ。こんな親もいるもんだと腹が立った。
「うん。ひどいよ」
勇夫の口調も荒々しい。2人とも、文香の両親が許せないようだ。
「勇夫くんもわかる?」
「ああ」
そこに、智がやって来た。チャーハンができたようで、智はチャーハンの盛られた皿を持ってきた。
「チャーハンできたよ!」
智は机にチャーハンを置いた。それを見て、文香はほっとした。このまま飢え死にしてしまうと思っていたが、ようやく食事にありつけた。
「ありがとう。いただきます」
文香はチャーハンを食べ始めた。とてもおいしい。朝から何も食べていないからだろうけど、いつもよりおいしく感じる。
「おいしい!」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
勇夫は笑みを浮かべている。おいしそうに食べている人々の笑顔を見るのが、自分にとっての励みになる。
「久々のごはん、本当においしいな」
「もう大丈夫。何かあったら、僕が守ってあげるよ」
それを聞いて、文香は顔を上げた。いろいろ大変だけど、勇夫といれば、なんとかなるかもしれない。これから少しお世話になるかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、一緒にいれば、何かいいことがありそうな気がする。
「ありがとう」
文香はあっという間にチャーハンを食べ終わった。よほどお腹がすいていたんだろう。
「ごちそうさま」
「今日はここで寝なさい」
文香は驚いた。家族じゃないのに、こんな事までしてくれるとは。勇夫はとっても優しいな。この人となら、幸せになれそうな気がする。
「ありがとう」
「おやすみ」
「おやすみ」
勇夫は2階に戻っていった。文香は食べ終わり、リビングでくつろいでいる。今日は大変だったけど、家で寝られる。これだけでも奇跡だ。だけど、それで浮かれ気分にならずに、また明日から仕事を頑張らなければ。
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