ただいま

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 翌日、いつものように朝が来た。だが、今朝は少し違う。リビングに文香がいるのだ。家を追い出された文香はリビングで一夜を過ごした。勇夫はそんな文香がかわいそうでしょうがなかった。両親に注意せねば。 「おはよう」  勇夫がダイニングにやって来た。そこには三枝子の他に文香もいる。智はすでに厨房にいて、仕込みをしている。勇夫はまだこの時間から仕事ではないが、いつかはこの時間からの仕事になるだろう。準備しておかないと。 「おはよう、昨夜はごめんね」 「いいよ」  文香は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。所持金を持たずに家を追い出された自分を、ただで泊めてくれた。こんなに嬉しい事はない。  すでに文香は朝食を食べ終えて、歯を磨いている。そろそろ仕事に行く時間だ。 「じゃあ、行ってくるね」 「行ってらっしゃい」  文香は家を出て行った。勇夫はそんな文香の後ろ姿を見ている。いつかは夫として見送りたいな。  11時になり、今日もラーメン屋は開店した。今日もあわただしい1日が始まる。だが、みんなそれに慣れていて、むしろそんな日々を楽しんでいるようだ。  と、そこに1組の夫婦がやって来た。一見、普通の夫婦のように見えるが、それを見て、智は鋭い眼光になった。智はその夫婦を知っていた。その夫婦は文香の両親だ。智は昨夜の出来事を思い出した。あの夫婦を注意せねば。 「ちょっとすいません、岡田文香さんのご両親ですか?」 「はい、そうですけど」  夫は驚いた。まさか話しかけられるとは。何かあったんだろうか? 「あなた、お宅のお子さんに何をしたんですか?」  妻は驚いた。まさか、家を追い出したのを知っているとは。誰も知らないと思っていたのに。まさか、近くのラーメン屋の店主が知っているとは。 「えっ、知りませんけど」  だが、妻は何も知らないような表情だ。その表情を見て、智は無性に腹が立った。娘にとんでもない事をしたのに、知らんぷりなのが許せない。 「あなたは何をしたんですか?」  智は強い口調だ。夫婦は驚いた。やっぱり、昨日の事を知っていた。 「あの子、もう知りません! 低賃金で働いている奴なんか、うちの娘じゃない!」  妻は怒っていた。もっとまともな仕事に就かなければ、娘として認められないと思っていた。それを聞いて、智は殴った。突然殴られて、妻は呆然となった。よく行っているラーメン屋の店主に殴られるとは。 「ふざけんな!」 「えっ!?」  夫も驚いている。こんなに怒られるとは。自分は間違った教育をしていないと思っているのに。 「お前、それでも親か!」  だが、両親の考えは揺るがない。もっとまともな仕事をしなければ、ここに帰ってくるな。 「もういい! 勝手にしろ!」 「はい」  2人は店を出て行った。今日はここで食べようと思ったのに、怒られては食べる気がうせてしまう。別の所で食べよう。  その頃、文香はコンビニの入り口付近でおにぎりを食べていた。仕事の日の昼食は、たいていこうだ。会社では弁当が注文できるらしいが、そんなに金がないので文香はここでコンビニのおにぎりを食べている。  突然電話が鳴った。誰からだろう。文香は電話に出た。 「岡田文香か?」 「はい」  智だ。どうしたんだろう。両親が仲直りしたいと思っているのを伝えに来たんだろうか? 「勇夫の父だ。しばらくここに寝泊まりしなさい」 「はい」  まだダメなようだ。しばらくは勇夫の家でお世話になるだろう。果たしていつまでこんな日々が続くんだろう。まったく先が見えない。  夕方、文香は帰り路を歩いていた。だが、いつもの帰り道ではない。勇夫の実家に向かう道だ。まだ本当の帰り道で帰れない。帰っても、両親に追い出されてしまうだろう。  文香は勇夫の家の前にやって来た。文香は肩を落とした。いつまでここにいなければならないんだろう。早く住む場所を見つけないと。 「ただいま」 「おかえり」  家に入ると、勇夫の声が聞こえた。だが、勇夫はいない。厨房にいるようだ。今は夕方。晩ごはんを食べに来る人がいて、忙しいようだ。 「大丈夫かい?」 「うん」  と、そこに智がやって来た。文香はほっとした。父よりほっとする。どうしてだろう。本当の父じゃないのに。 「大丈夫か? 両親はまだ怒っているようだ。説得したんだが」 「そうなんだ」  そこに、勇夫がやって来た。材料を取りに来たようだ。 「ねぇ勇夫くん」 「どうした?」  勇夫は驚いた。何か言いたい事があるんだろうか? いったい何だろう。 「少し話さない?」 「いいけど」  それを聞いて、智が厨房に入った。勇夫が文香との事で手が離せないようだ。ならば自分が厨房に入ろう。 「どうしたの?」 「話したい事があって」 「何?」  勇夫はドキドキしている。ひょっとして、これからも一緒にいようというんだろうか? 「これからも、ずっといてくれる?」 「い、いいけど」  勇夫はあっさりと受け入れた。だって、ガールフレンドじゃないか。 「突然の事で、ごめんね」 「こんな私だけど、大丈夫なの?」  文香は思っている。低賃金で両親に追い出された。こんな私でも、いいんだろうか? 「いいよ。だって、文ちゃんが好きだから。親が怖いのなら、ここにいればいいよ」 「ありがとう」  文香はほっとした。これからもここにいよう。そうすれば、きっといいことがあるかもしれない。そして、結婚までこぎつけられるかもしれない。いつになるかわからないけれど、その日は近いだろう。
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