第1章

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 ……そりゃそうだ。先輩と亜玲は殆ど面識がない。多分、遠目から見たことがあるとか、そういうレベルだ。  だって、亜玲、目立つし。 「けど、まぁ、考えられる可能性っていえば……」 「いえば?」 「祈が好きだから、構ってほしいんじゃないのか?」  ……ない。それは絶対にない。 「ないですよ。それだけはぜーったいにあり得ません!」  亜玲は俺が嫌いなのだ。嫌いで、大嫌いで、憎たらしいのだろう。  そうじゃないと、あんなことするわけがない。 「そうかぁ? 僕はそう思うんだけど」  チーズをつまんで、先輩はのんびりと笑って言う。……そんな、問題じゃないのに。 「だってさぁ、そうじゃないと男も女も。アルファもベータもオメガも。見境なしに奪わないだろ」  先輩がのんびりと笑っている。そりゃあ、そうかもしれないけれど……。 「でも、俺みたいに性別とか気にせずに恋愛感情を抱いちゃう奴、いるじゃないですか」 「……まぁなぁ」 「亜玲も、そういうタイプなのかも」  自分で言っていて悲しくなってきた。  俺は第一の性別も、第二の性別も。気にせずに恋愛感情を抱ける人間だ。  ……なのに、ずっとこのざまなのだ。もう、失笑ものだ。
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