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俺が目を逸らし続けていた現実を、いとも簡単に突きつけてくる。
それでも。
「……亜玲さえ、いなかったら!」
「――俺さえいなかったら、なにかが変わったの?」
冷静な亜玲の声を聞いて、俺はハッとして亜玲の顔を見つめる。
……亜玲は、笑っていた。その目には仄暗い感情が宿っているようにも見える。
「言っておくけれど、あれくらいで俺に靡くような奴らは、何処かで浮気をしたと思うよ? 俺が手を出すまでもなく、祈は振られてた」
まるで、俺をバカにしているかのような言葉だった。
……いや、違う。亜玲は間違いなく俺のことをバカにしているんだ。
簡単に人を好きになる馬鹿な男だって、嘲笑っているんだ。
「そんな奴を奪って、なにが悪いの? むしろ、祈は俺に感謝してよ。……バカな人間どもから、助けてあげているんだからさ」
……話にならなかった。
先輩はきちんと話すべきだって言っていた。
だけど、こんな男となにを話せっているんだ。
(感謝? 冗談じゃない! 俺のことを見下して、嘲笑っているくせに……!)
少し卑屈な考えかもしれない。わかっている。わかってはいるけれど……その考えが、消えてくれない。
「……もう、いい」
自分でも驚くほどに低い声が出た。
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