第1章

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 ただただ亜玲を見つめて、にらみつけて。一旦深呼吸。 「もう、お前と話すことはない。亜玲」 「うん」 「もう、俺に近づいてくるな。あと、今後出来た俺の恋人にもちょっかいを出すな」  それだけを告げて、俺は玄関のほうに視線を向けた。……あぁ、時間の無駄だった。 「……うーん、どうしようかなぁ」  亜玲がそう言葉を零したのが、聞こえた。  ……こいつは、この期に及んでまだ迷うのか。 「――亜玲!」  そう思ったら、身体が自然と動いていた。  亜玲の胸倉をつかんで、ぐっと顔を近づける。  ……恐ろしいほどに整った顔の男が、俺を見つめている。まるで黒曜石のような目は、俺だけを映している。 「……もう、嫌なんだよ」  ぽつりと言葉が漏れた。  もう、嫌なんだ。亜玲に振り回されて、満足に恋も出来ない生活が。 「お前の所為だ。お前の、お前の所為なんだよ!」  俺が幸せに慣れないのは、亜玲の所為。  そうだ。それが正解で、間違いじゃない。  亜玲さえ、亜玲さえいなかったら――。 「ははっ」  そう思う俺の耳に届いたのは、この場に似つかない楽しそうな笑い声だった。  驚いて亜玲の目を見つめる。奴は、ただ笑っていた。 「いいね、最高。……祈の目が、俺だけを見ているんだ」  亜玲が俺に手を伸ばしてきて――頬に、触れた。
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