73人が本棚に入れています
本棚に追加
ただただ亜玲を見つめて、にらみつけて。一旦深呼吸。
「もう、お前と話すことはない。亜玲」
「うん」
「もう、俺に近づいてくるな。あと、今後出来た俺の恋人にもちょっかいを出すな」
それだけを告げて、俺は玄関のほうに視線を向けた。……あぁ、時間の無駄だった。
「……うーん、どうしようかなぁ」
亜玲がそう言葉を零したのが、聞こえた。
……こいつは、この期に及んでまだ迷うのか。
「――亜玲!」
そう思ったら、身体が自然と動いていた。
亜玲の胸倉をつかんで、ぐっと顔を近づける。
……恐ろしいほどに整った顔の男が、俺を見つめている。まるで黒曜石のような目は、俺だけを映している。
「……もう、嫌なんだよ」
ぽつりと言葉が漏れた。
もう、嫌なんだ。亜玲に振り回されて、満足に恋も出来ない生活が。
「お前の所為だ。お前の、お前の所為なんだよ!」
俺が幸せに慣れないのは、亜玲の所為。
そうだ。それが正解で、間違いじゃない。
亜玲さえ、亜玲さえいなかったら――。
「ははっ」
そう思う俺の耳に届いたのは、この場に似つかない楽しそうな笑い声だった。
驚いて亜玲の目を見つめる。奴は、ただ笑っていた。
「いいね、最高。……祈の目が、俺だけを見ているんだ」
亜玲が俺に手を伸ばしてきて――頬に、触れた。
最初のコメントを投稿しよう!