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亜玲の指先は冷たかった。
その指に触れられていると、ゾクゾクとしたものが背中を駆けあがっていく。
……頭が警告を鳴らした。このまま、ここにいてはいけないと。
「ふざけるな! 俺は、お前のことが嫌いなんだよ……!」
亜玲の手を振り払って、もう一度玄関のほうに身体を向ける。
……時間の無駄だった。こいつと話そうとした俺が馬鹿だった。
(亜玲は、悪魔だ)
昔の天使のような亜玲は、もう居ないんだ。
今の亜玲は悪魔で、俺の不幸を願っているんだ。
ぎゅっと唇を結んで、俺は一歩を踏み出そうとした。……踏み出せなかったけれど。
それは、亜玲が俺の手首を掴んだからだ。
「なに、逃げようとしてるの?」
そう言った亜玲が、俺の身体を自身のほうに引き寄せる。気が付いたら、俺は亜玲の腕の中にいた。
驚いて目を見開けば、亜玲がぎゅうっと俺の身体を抱きしめてくる。……冗談じゃ、ない。
「離せ! お前にこんなことをされる筋合いは……!」
亜玲の腕の中から抜け出そうと、暴れる。が、そんな俺の抵抗を簡単にねじ伏せて、亜玲は素早く俺の身体を床に押し倒した。
そのまま亜玲は俺の身体の上に跨ってくる。頭の中でさらに強い警告音が響く。このままだと、ダメだと。
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