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「ねぇねぇ、いのり。きょう、いえにいってもいい?」
亜玲は全く挫けることなく、俺に声をかけてきた。ニコニコと憎たらしいほどに笑って。
……俺の劣等感なんて、知りもしないで。
この頃には、俺は亜玲とは違うのだと薄々感じるようになった。亜玲は御曹司で、顔立ちが良くて。優しくてスポーツ万能、頭脳明晰。まるで、絵本の中の王子様のような男の子。
対する俺は、一般家庭の生まれで、顔立ちは平凡で。性格は普通で運動神経は中の下。頭はいいほうだけれど、亜玲の足元にも及ばない。……劣等感を刺激されないほうが無理だった。
「……なぁ、あれい」
「うん? どうしたの?」
「……もう、おれにかかわってくるな!」
言い逃げだった。ただの八つ当たりだった。
だから、俺は後悔した。明日になったら謝ろう。
きちんとごめんなさいをしよう。そう、決めていた。
なのに、その次の日。亜玲は、昨日の俺の言葉など気にもしないかのように振る舞ったのだ。
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