第1章

6/27
前へ
/30ページ
次へ
 どうしてこんなことをするのか。その理由はいまいちよく分からないし、理解も出来ない。  だって、この頃俺と亜玲は疎遠になりつつあった。互いを認識することはあっても、面と向かって話すことは殆どない。  人気者で完璧な亜玲と、平凡な俺。一緒にいられるわけがなかった。 (だけど、さすがに大学生になったら変わるよな。俺と亜玲は、別の大学に行くんだろうし)  人に囲まれて、笑みを浮かべて。楽しそうな亜玲を見ると、劣等感を刺激された。だから、それを誤魔化すように亜玲のことは考えないようにする。大学生になったら、変わる。そう、信じていたのに――。 「やぁ、祈」  奴は、俺と同じ大学に入学した。  そうなれば、もう結果は散々だ。俺が好きになった奴。俺の恋人になった奴。一人残らず亜玲に奪われた。  ……いや、奪っているというのは語弊があるのかもしれない。亜玲は、ただ俺の好きな奴は恋人に、特別いい顔をしているだけだ。  結果的に、みんな亜玲に惚れる。俺のことを捨てる。……本当に、散々だ。  なんとか亜玲から離れようと頑張っても、結果はなにも変わらない。もはや、悲しみなんてずっと昔に通り過ぎた。  亜玲は顔が良い。亜玲は性格が良い。亜玲は身分が良い。  世間の評価で俺が亜玲に勝てるところなんて、一つもない。ただ唯一勝てるところといえば、人へ向ける愛情くらいだろう。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加