第2章

23/37
前へ
/83ページ
次へ
「あ、亜玲! 落ち着いて」 「俺は落ち着いてる。普通だよ」  絶対に嘘だ。亜玲の手は震えている。あの言動もどう考えても正常なときに出るようなものじゃない。  ――亜玲は落ち着いていない。  突然亜玲が俺の身体を引き寄せた。そして、俺の首筋に顔をうずめる。まるで、縋っているみたいだ。 「なぁ、ここは人目が――」  身体を引きはがそうともがく。  周囲の目が何事かとこちらを見ているのがわかる。痴話喧嘩の時点である程度の視線は集まっていた。そこに、亜玲のこの状態だ。注目されないわけがない。 「そんなの関係ない。祈が、祈が悪いからっ――!」  これじゃあまるで駄々っ子だ。普段は余裕たっぷりな亜玲が、余裕を崩している。むしろ、余裕なんて欠片もない。 (――俺が、悪いのか?)  そりゃそうだ。  亜玲の地雷を知らずに踏み抜いたのは俺だ。今回のことは知らなかったとはいえ、俺に責任がないわけじゃない。 (けど、どこで亜玲の地雷を踏み抜いたのかが、わからない)  原因とか理由がわからない以上、謝ったところで意味なんてないだろう。  そう思ったから、俺は必死に思考回路を動かした。  互いになかったことにとか、もう関わるなとか。そんなことを言った覚えしかない。  ――それ以外には、なにも。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加