2.我が街の複雑な路線

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2.我が街の複雑な路線

 俺と綾面が住んでいるところは久村山市(ひさしむらやま)という街だ。S玉県との境に程近いT京都にある。  高層ビルが乱立するコンクリートジャングルな都区内に比べてだいぶ自然が豊かで、北の方にちょっとばかり数分も歩けばなだらかな丘陵地帯があったりする。ベットタウンというのか、都会と田舎の境みたいな感じ。  その丘陵地帯は一般的に鉢国山(はちこくやま)と呼ばれている。  かつて山頂から八つの国を見下ろすことができたということから山の名前がつけられたそうな。八だから鉢ということ。まあ、山とは言ってもそんなに高くなくて迷子はさておき遭難する心配も無く、お手軽に散歩ができるように山道も整備されている。  で。その山に登ってT京都とS玉県の境目辺りにあたる遊歩道をひたすら歩いて西に向かうと、西部園(せいぶえん)と呼ばれる開けた土地に出る。  そこには駅もあれば競輪場やら遊園地やらもある。更には広大な公園として整備されたT京都の水瓶となっているでかい貯水池……多魔湖(たまこ)と呼ばれる人造湖なんかもある。とてもアミューズメントパークめいたところだ。  西部園に出てから更に十数分程西に歩くと、今度は西部ゆうえんち駅というところにたどり着く。  そこから『ライライナー』と呼ばれる鉄道……いや違うな。レールじゃなくて専用軌道をタイヤのついた車両が走るから正確には鉄道じゃなくて、なんつーんだ? ああそうだ、新交通システムとか言われている変なやつだ。ノロノロと走るそれに乗り換えて二駅ほどで、最終目的地である西部球場前駅に到着する。 「着いたー!」  目指していた野球場は距離的には俺の家から近くなのだが、この辺りの地域は歴史的な経緯もあって鉄道路線が複雑に入り組んでいたり中途半端に途切れていたりするので、このように極めて回りくどいルートを辿らねばならないのだ。  わざわざ山越えなんざせずに鉄道オンリーで行くにしても、まず久村山駅まで徒歩でとことこと十五分ほどかけて行き、そこから北に一駅。処沢(ところざわ)駅で生袋(いけぶくろ)線に乗り換えてまた一駅。西処沢(にしところざわ)駅で茶山(さやま)線に乗り換えて二駅ばかりで辿り着く。説明するだけでも面倒くせえ。  とにかくも今日俺は、このやたら元気で野球好きな幼馴染のJDと共にプロ野球観戦をすることにしたのだった。 「三塁側の内野でいいか?」 「おっけ!」  ちなみに俺はご近所をホームグラウンドにしている西部ライナーズのファンではなくて、今回の対戦相手であるビジターチームの千羽ロッチマロンズがご贔屓であったりする。隣の県に本拠地を構えているチームだ。  なんで地元チームのファンじゃないんだって? この天邪鬼? 捻くれ者? いやいや、別にそういうわけではないんだ。大したことではないのだが、マロンズのファンになった理由があってだな。それは……。 「哲弘ー! 行くぞー!」 「おう!」  うきうき状態の綾面に手を引かれて、俺は購入したチケットを片手にスタジアムへと入場していった。
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