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3.長い帰路の始まり
「あー、くっそ弱ぇ!」
「だーはっはっはっはっ! ざーこざーこ!」
──試合は12対1で西部ライナーズの勝ち。はっきり言って我が軍のボロ負けである。俺にとっては拷問とも思えるクソ試合を、律儀にも最終回まで見てしまったわけだ。
ひたすら投手陣がカキーンカキーンと打ち込まれてがっくりとうなだれる俺とは対象的に、心底愉快そうに高笑いしている綾面。嬉しそうだなこの野郎。
まぁでも仕方がない。なんせ今日は先発ローテーションの谷間。園河という名の、別段ピッチングが悪い訳ではないのだがなかなか打線の援護に恵まれなかったりして、勝利数が敗戦数を上回れないことが多いという不運な投手だったからだ。
「園河は年に一度、目が覚めるような好投をする投手なんだがなぁ……」
「ふひひ。どうやらそれは今日じゃなかったみたいだなー? あひゃひゃひゃひゃ!」
「うるせぇ畜生! むかつく!」
ちなみに。こいつの喜びようでわかるだろうが、綾面は西部ライナーズのファンだ。こいつはこんなふうに時々野球の試合を口実にしては俺のところにやってくる。恒例行事というやつだ。
こいつとは小さな頃からの付き合いだ。それこそ保育園から中学に至るまで一緒で、高校から先は進路が変わった。
そうして疎遠になるかなーと思いきや、わざわざこうして俺を遊びに誘ってくる。
「ったく。もう帰っぞ!」
「おー」
負け試合の悔しさを振り払うように、俺はさっさと帰ることにした。試合結果は残念ではあったけれど、まぁ、いい気晴らしにはなったよ。
それが長い帰路の始まりだった。
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