4.山越え再び

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4.山越え再び

 俺達が野球の試合を見ていた球場……西部球場のしょーもない特徴として、春先は凄まじく寒く逆に夏は猛烈に暑いという局地的な環境が挙げられる。  何せ、人里離れた丘陵地帯の窪みを掘り下げて作られたすり鉢状の球場なのだから。  将来的には屋根を取り付けてドーム化するという構想があるらしいのだが、果たしてそれで快適な環境に変えられるのだろうか?  まあそんなわけで俺達は試合の合間を見計らっては、どちらからとなく食い物なんかを買いに行った。暖かいうどんやそば肉まんなんかを、寒さを紛らわせるためにな。  それはよかったのだが。途中から余りにも寒いので、あるものを口にしたものだ。 『かー! 清腹(きよはら)打ったー! すげー!』 『畜生! まーた四番に打たれた!』  寒い時は酒。とはいってもお互い最初にビールなんか飲んだものだからかえって寒さが増してトイレが近くなりまくった。その反省を活かして今度は日本酒の熱燗を何本も買ってきて互いに飲みまくった。まったく、加減しろアホ二人組。一体なにをやっているのだろうか。  そういうわけなので俺らは試合が終わる頃には完全に酔いが回っていた。  で、夜になったのだから常識的には鉄道を使ってぐるっと大回りして帰ろうというところなのに『行きと同じく山越えして帰ろーぜー!』とかいう、綾面のアホ極まる提案を俺は受け入れることになった。  綾面曰く、まだまだ俺と話をしたいのだそーな。まぁ、そういうことなら仕方がないか。  てなわけで再びライライナーに乗って、西部ゆうえんち駅から今度は東に向けててくてくと徒歩。西部園の街を越えて再び鉢国山の山道へと入るのだった。  緩やかな丘陵地帯を上っていく。アスファルトの硬い感触とは違う土のちょっとしっとりとした柔らかさ。木々に覆われた森林地帯。街灯の一つもなくて辺りは真っ暗。  アホな酔っ払い二人がそんな道を歩んでいく。
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