ゆきおんなのお仕事探し

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「六ツ野花さん、生まれは九五一年二月一日で京都北部の小さな山。属性は雪女ですね。ーーまあ、千年以上も生きていらっしゃるなんてすごいですね! 二十代かと思いましたよ」  翌日ハローワークに行くと、対応してくれた四十代くらいの人間の女性は私の履歴書を笑顔で確認してくれた。 「この酷暑ですから、雪女さんが来てくれると涼しく感じますね」と彼女はにっこり笑ったが、私はこの暑さで命の危険すら感じている。体は溶けそうだし、ハローワークまで歩くだけで頭がクラクラしたほどだ。 「あの、私、すぐにでも仕事を見つけなきゃならなくて。何かありますか」  借金があるから、とはなんとなく言えない。私はカバンから扇子を取り出して、ひらひらと自分を扇ぐ。前にハンディファンも使ってみたが、その人工の風がいまいち苦手で私は扇子を使っている。 「やっぱり妖怪の方々には遊園地でのお仕事が一番なんですけどね。ちょうどこれから人間は夏休みですしーー」  ハローワークの女性はパソコンのキーボードを叩きながら話を続ける。 「ただ遊園地はどこも人手が足りているようでして、採用枠がほとんどないんですよ。それに今の主流はゾンビですから、日本古来の妖怪やお化けを採用する遊園地はほとんどなくて。あとは映画やドラマなんかの映像系ですけど、こちらは今は呪いがブームですし」 「そうですよね……」  私はがっくりとうなだれた。その点、ドリームレインボーランドはとても良い職場だった。二十年前に建てられたお化け屋敷で、私はろくろ首さんやのっぺらぼうさんと一緒に人を驚かせていた。でもそういうスタイルは今はウケない。  ドリームレインボーランドは万事がそういう調子だった。メリーゴーランドは古めかしくて塗装が剥げていた上にしょっちゅう止まっていたし、ジェットコースターだって回転は一回だけ。強い刺激を求める現代の人々が来なくなるのも当然で、だから潰れたのだ。  ハローワークの女性はやがて申し訳無さそうに私をちらりと見た。 「短期のお仕事でしたら、いくつかありますよ。雪女さんにしかできないお仕事ですけど、ただちょっと体力的にはつらいかもしれませんがーー」  暑さで目が回りそうだった私は、あまり良く考えずにその仕事に決めた。
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