同じ回数だから

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 いくら私が年上であるかは関係なく、二人で過ごす時間はもどかしくて、どうすればもっと濃密にふれあえるのか、どうすればふたりは一つになれたのか、探しても時間切れになるばかり。結局のところ、シーツの上には二つの身体、二つの心しかないと思い知らされる。  彼女の痕跡をせめて心の奥に引き留めようとする私はその残骸を核にして真珠を育てる。だれにも見せることのないそれらはきっと私が死ぬまで心の中、奥深くで静かに輝いていると信じてる。 「違いは生きる時間に差があるってコト、それだけ。そんなのワタシがあなたを好きになれない理由にはチョット弱いかな」  そう言ってお互いの生きた時間の差など気にもせず、私に心を預けてくれた彼女。深め合う二人の時間が重なる度に痛感する事実。  私と彼女の時間のものさしは大きく異なる。  同じ思い出を積み上げていくのならエンドマークは圧倒的に先に彼女に訪れる。  せめて同じ種になれればと平凡な事をもくろむ私に彼女は望みを告げる。だから彼女の全てを私は奪う事ができない。 「でも死ねる回数は同じ、あと一回」  彼女の笑顔は極上で、息を飲む私の時間を止めてしまう。 「ワタシもアナタも誰でも死んでいくんだし。そしてワタシを知る人も死んでいく。時間が進むばかり、いつしか生きていた痕跡は消えていくよね」  わざとに視線をはずしてため息をついた。 「砂に書いた絵みたい、風に消されるし波に洗われるし」  言いたい放題に私に枷をつきつける。 「でも、ワタシだけは違うの。だって、あなたに愛されてしまったから」  小指を噛んで私を見上げる。 「あなたはいつまでも私のコトを覚えていてくれるから。時間が過ぎても私の痕跡が消えることはないと信じられるの」  赤色の一筋が流れた。純潔の象徴のように白いシーツに広がる輪にわたしはもどかしく口づけた。私が彼女と同じ時間を刻めるようになりたいと思ってもそれは叶わない。 「エゴ、押しつけてごめんね。でも約束する。死の間際にアナタのコトを考えている。だからアナタは死ぬまで、ずっとワタシの事、覚えていてね」  してくれたのはたった一回の約束。それを胸に私は悠久に近い時間を自分のの死まで生きていくのだ。  微笑んだ彼女は吸血鬼の私の首に優しく口づけをした。 【了】
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