残酷な提案

1/4
前へ
/13ページ
次へ

残酷な提案

 この世界に来て2年の月日が経った。  先日、何度目かの『人間に戻るための魔法』をかけて以来、依澄は部屋から出てこなくなった。  確かに先日の魔法の後、見た目が悪くなってきたと感じたが……「気にすることはないよ」と言ったことが不味かったのだろうか。  以前なら時々依澄は部屋から出て、俺とのお喋りを楽しんでいた。  俺の仕事での出来事や魔法の修行の事、依澄が読んだ日記や書物の事。  しかしこの世界に転移した時以来、依澄は「元の……人間の姿に戻ってからが良いの」と言って、キスもハグも許してくれない。  俺は気にしないようにしているが、やはり女子高生、外見を気にしていたのだろう。 「依澄、また外で狩りをしてきたのか」  俺はドアの向こうにいるはずの依澄に声をかける。  依澄は食事をしないのではない。  人間が食べるような食物が受け付けないだけだ。  そのため、俺は暇さえあれば森の奥に狩りに行く。  ウサギや鳥を捕まえては依澄に渡す。  依澄は自分の部屋から直接外に出られるドアを取り付け、外で食事をする。  食事の時以外は外に出ないように言ってあるが、どうやら俺が捕獲してきた食事だけでは足りないらしい。  適応しない魔法をかけるたびに食事の量が増えているのは、きっと気のせいではない。  そう。俺はこの世界に来てすぐから魔法使いの弟子になり、厳しい修行に耐え、今ではある程度の魔法が扱えるようになった。  そして同時に仕事や狩りを続けてきた。  全ては、人間の姿になった依澄と元の世界に戻るために。  そして先日、依澄の爪の色が赤くなっていることに気がついた。  きっと次にをかけてしまうと、依澄は死ぬ。  まだ試していない『魔物を人間に戻す魔法』は沢山ある。  その中から、依澄に効果のある魔法を探さないといけない。  しかし、選択の条件など一切ない。  全ては直感。そしてその全てが外れている。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加