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残酷な提案
この世界に来て2年の月日が経った。
先日、何度目かの『人間に戻るための魔法』をかけて以来、依澄は部屋から出てこなくなった。
確かに先日の魔法の後、見た目が悪くなってきたと感じたが……「気にすることはないよ」と言ったことが不味かったのだろうか。
以前なら時々依澄は部屋から出て、俺とのお喋りを楽しんでいた。
俺の仕事での出来事や魔法の修行の事、依澄が読んだ日記や書物の事。
しかしこの世界に転移した時以来、依澄は「元の……人間の姿に戻ってからが良いの」と言って、キスもハグも許してくれない。
俺は気にしないようにしているが、やはり女子高生、外見を気にしていたのだろう。
「依澄、また外で狩りをしてきたのか」
俺はドアの向こうにいるはずの依澄に声をかける。
依澄は食事をしないのではない。
人間が食べるような食物が受け付けないだけだ。
そのため、俺は暇さえあれば森の奥に狩りに行く。
ウサギや鳥を捕まえては依澄に渡す。
依澄は自分の部屋から直接外に出られるドアを取り付け、外で食事をする。
食事の時以外は外に出ないように言ってあるが、どうやら俺が捕獲してきた食事だけでは足りないらしい。
適応しない魔法をかけるたびに食事の量が増えているのは、きっと気のせいではない。
そう。俺はこの世界に来てすぐから魔法使いの弟子になり、厳しい修行に耐え、今ではある程度の魔法が扱えるようになった。
そして同時に仕事や狩りを続けてきた。
全ては、人間の姿になった依澄と元の世界に戻るために。
そして先日、依澄の爪の色が赤くなっていることに気がついた。
きっと次に適応しない魔法をかけてしまうと、依澄は死ぬ。
まだ試していない『魔物を人間に戻す魔法』は沢山ある。
その中から、依澄に効果のある魔法を探さないといけない。
しかし、選択の条件など一切ない。
全ては直感。そしてその全てが外れている。
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