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プロローグ
「ぎゃ、ぎゃぐぁあああああっ」
魔法陣の中で異形の者が悲鳴をあげる。
「ごめん、依澄、痛いよね、苦しいよね。でももうちょっと耐えて……!」
魔法陣で彼女を捕らえていなければ、きっと今頃俺は肉の塊になっている。
金色の怨みがましい眼差しで俺を睨み、今にも喰らいついてきそうな鋭い歯を剥き出しにし、酷くひび割れた緑色の皮膚の手に際立つ長い爪で空間を切り裂こうとしている。
俺は恐怖と闘いながら、習得したばかりの呪文を唱える。
依澄、頑張れ。
依澄、今回こそきっと……!
空に五芒星を描き、
「依澄を元の人間の姿に戻せーーー!」と叫び、ありったけの魔力を依澄に向かって放射する。
「ぐっ…はぁああああああっ!」
土煙が舞い、その中で依澄が地面に倒れ込んだのがわかった。
―――どうだ?今回こそ成功したか!?
土煙が収まり、魔法作用が収束していることを確認して彼女に駆け寄った。
―――依澄は異形の姿をしたままだった。
「ごめん、また失敗だ……」
俺の涙が抱き上げた依澄のひび割れた頬に落ち、染み込んでいく。
そっと依澄が目をうっすら開け、ふっと小さく笑う。
「……千早、またダメだったんだね」
俺は何も言えず、黙って頷いた。
依澄の長い爪が、赤く染まってきている。
きっと、依澄がこの儀式に耐えられるのは……あと1回。
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