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異世界転移
「依澄、部活もうすぐ終わるから。ごめんね、待たせて」
校庭のフェンスのそばに転がった球を拾う振りしてフェンスの向こう側で待つ、付き合って1ヶ月の彼女、依澄に声をかける。
「うん、大丈夫だよ。もう少ししたら、図書館で待っているね」
同じ高校に通う橋田依澄。
1年生の時は別のクラスだったため名前も知らない存在だったが、時々この野球部の練習をフェンス越しに眺めていた彼女が気になっていた。
彼女がフェンスの向こうにいる時は球部全体の士気が上がっていたので、気がついているのは俺だけではないようだった。
2年生になって初めて同じクラスになり名前を知り、夏休みが明けた頃「よく野球部の練習を見ているよね」と声をかけた。
その途端、彼女は白く美しい肌を真っ赤に染め「……あなたを……川本くんを見ていました」と打ち明けてくれた。
晴れて恋人同士になった俺と依澄。
泥まみれのユニフォームから制服に着替えた俺は、今日も依澄を図書館へ迎えに行き、校舎裏の自転車置き場まで一緒に歩く。
恥ずかしさから交わす言葉は少なくても、一緒にいられるこの時間が愛おしい。
だけど、いつまでもこの距離感というのはもどかしい。
校舎裏、人気が無いのを確認した瞬間、依澄を引き寄せ抱きしめる。
高鳴る心臓。
抑えがきかない感情。
少し依澄を引き離し、彼女の頬に手を添える。
依澄は軽く目を閉じて顔をこちらに向け、次に起きる出来事を迎え入れようとする。
彼女のこわばる口元が可愛いと思いながら、俺は突き出した唇で軽く口づけをした。
その瞬間、突風が吹き荒れ地面が崩壊した感覚に陥った。
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