とりのこやま

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 もらった包みを見つめ、キサは最後の笑みをこぼした。  自分の体だ。こんなものがなくても、じきに心ノ臓が止まることはわかっていた。  びしょ濡れの着物が山頂の空気に冷やされても、もう寒気も感じない。かすかすの息に灼かれていた喉も、さっきからぴたりとひっついて唾を飲み込むこともできないのだ。  郷に残る家族の息災を願掛けしようと、キサは最後の力を振り絞り、御神木をぐるりと回って生を終えることにした。  社の真裏まで回った時だ。つきん――と心ノ臓に鋭い痛みが走って、昏倒した。  傾いだ体は一本杉にぽっかり空いたに、吸い込まれるように転がり込んだ。  どれほど転げ落ちただろう。次に目を覚ましたキサの身は、真っ暗な闇の中、土と杉の香りに包まれていた。  辺りを見回すと、一方から淡い光が差し込んでいる。キサは自然とそちらに引き寄せられて立ち上がった。  不思議と恐ろしさはなく、あんなに苦しく思うようにならなかった体も軽くなっている。ここが此岸と彼岸のあわいで、キサはもはや彼岸に足を踏み入れているのだと哀しげもなく受け入れた。
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