とりのこやま

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 その晩、村長の家に招かれた男二人は、出された酒にも手をつけられずに消沈していた。浄めだからとせっつかれて、ようやく口にしたものの味はしない。  火明かりに浮かぶ、面を外した相貌はすっかり痩けてしまったように映った。  この役を担った者は皆こうだ、と長は慰めにもならない言葉を漏らす。それから、ぽつりぽつりと語って聞かせた。 「だども、忘れなきゃなんねぇ。あの()の子も、オラたちのことなんざ、もう覚えちゃいねぇ」 「あの山に捨てられたもんは、みぃんな綺麗さっぱり消えちまうんだよ」 「天狗だか、獣だかわからねぇが。着物も骸も残りゃしねぇ」 「それで付いた名前が、とりのこ(さん)――」 「とりのこさんさ行けば、現世の未練もなんも取り残さず拾って、神さんとこさ行けるってんでな」 「捨てるほうも捨てられるほうも、恨みっこなしだってんでよ……」 「オラもそのうち行くべしな。そん時ゃ、両隣の(せがれ)に今の話をしてやってくれな」  重たい沈黙の中、夜半(よわ)の空を一羽の鳥が横切った。  山に抱かれた小さな郷に、澄んだ声が木霊する。  こんな夜中に高らかに歌うのは、如何な姿の鳥であろうか。ぴぃぴぃ――と、愛らしい声は歓びに満ち、まるでその生を謳歌するかのようだった。  お終い。
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