12人が本棚に入れています
本棚に追加
その晩、村長の家に招かれた男二人は、出された酒にも手をつけられずに消沈していた。浄めだからとせっつかれて、ようやく口にしたものの味はしない。
火明かりに浮かぶ、面を外した相貌はすっかり痩けてしまったように映った。
この役を担った者は皆こうだ、と長は慰めにもならない言葉を漏らす。それから、ぽつりぽつりと語って聞かせた。
「だども、忘れなきゃなんねぇ。あの女の子も、オラたちのことなんざ、もう覚えちゃいねぇ」
「あの山に捨てられたもんは、みぃんな綺麗さっぱり消えちまうんだよ」
「天狗だか、獣だかわからねぇが。着物も骸も残りゃしねぇ」
「それで付いた名前が、とりのこ山――」
「とりのこさんさ行けば、現世の未練もなんも取り残さず拾って、神さんとこさ行けるってんでな」
「捨てるほうも捨てられるほうも、恨みっこなしだってんでよ……」
「オラもそのうち行くべしな。そん時ゃ、両隣の倅に今の話をしてやってくれな」
重たい沈黙の中、夜半の空を一羽の鳥が横切った。
山に抱かれた小さな郷に、澄んだ声が木霊する。
こんな夜中に高らかに歌うのは、如何な姿の鳥であろうか。ぴぃぴぃ――と、愛らしい声は歓びに満ち、まるでその生を謳歌するかのようだった。
お終い。
最初のコメントを投稿しよう!