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1. センセイ。
先生。
僕はこの学校に入ったその日から、
貴方のことが愛おしくて仕方がありません。
貴方のその流れるような、まるで安らぎを肩に乗せているかのような低い声が、このふたつの耳から離れてくれなくて。
ただ毎日毎日、同じ場所から動けなくて困っているのです。
「登張くん」
はい、と返事をする。
貴方に名前を呼ばれただけで。
僕はもう、夢心地。
「登張くん。大丈夫かい、どこかぼうっとしているようだけど」
先生。
嬉しいです。
もっと心配してください。
「……いいえ。大丈夫です。
次の期末テストのことが、気になっているだけなので」
周りの人達が「ははは、」と楽しそうに笑う。
「俺も気になるよ」「さあどうなるだろうね」
そんなふうに笑い飛ばす。
先生はとても困った顔で手に抱えたプリントに目を落とす。
「そうか。今回は……。
それなら少し、範囲を削ればよかったかも知れないね。
負担をかけてしまって、なんだかすまない。」
片眉を上げた情けない顔で笑うその顔が。
目尻の横の線画のような皺が。
とにかく愛しいんです。
「すまないね。
頑張ってくれるかな?君ならきっと大丈夫だ。
期待しているからね」
先生の担当教科目は、化学。
僕の一番不得意な、化学。
ーーだけれど。
先生に頑張れと言われたら、そりゃあ、頑張るしかないのです。
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