1. センセイ。

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先生には、奥さんが。 それも二年前まで、の話だ。 どうやら病気だったらしく、長きにわたる治療の甲斐虚しく、病室で眠るような最期を遂げたらしい。 とても、悲しんだと聞いた。 とても綺麗な奥さんだった、とも。 手芸が趣味だったらしく、先生のいつも持ち歩いている鞄には、可愛らしいウサギのキーホルダーがついていた。 “編みぐるみ”と呼ばれる、細い毛糸で編んだ、ウサギさん。 先生の座る職員室の机の上に置かれたカラフルなコースターも、おそらくきっと、奥さんのお手製の物。 そこに置かれた臙脂(えんじ)いろのティーカップに入った焙じ茶を飲む、先生の姿。 相変わらず愛おしい。 つい、見てしまい。 僕は複雑な気分に陥ってしまうのです。 もしかしたら空の上から、お亡くなりになった奥様(故)が、僕を睨んでいるのかも、と。 そんなわけはない。 だけど、それでいいのです。 先生はまだ、薬指に銀色の指輪を付けたままにしている。 だからこそ僕は貴方が愛しいのです。 恋心とは、なんとも複雑で、難しいです。
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