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先生には、奥さんがいた。
それも二年前まで、の話だ。
どうやら病気だったらしく、長きにわたる治療の甲斐虚しく、病室で眠るような最期を遂げたらしい。
とても、悲しんだと聞いた。
とても綺麗な奥さんだった、とも。
手芸が趣味だったらしく、先生のいつも持ち歩いている鞄には、可愛らしいウサギのキーホルダーがついていた。
“編みぐるみ”と呼ばれる、細い毛糸で編んだ、ウサギさん。
先生の座る職員室の机の上に置かれたカラフルなコースターも、おそらくきっと、奥さんのお手製の物。
そこに置かれた臙脂いろのティーカップに入った焙じ茶を飲む、先生の姿。
相変わらず愛おしい。
つい、見てしまい。
僕は複雑な気分に陥ってしまうのです。
もしかしたら空の上から、お亡くなりになった奥様(故)が、僕を睨んでいるのかも、と。
そんなわけはない。
だけど、それでいいのです。
先生はまだ、薬指に銀色の指輪を付けたままにしている。
だからこそ僕は貴方が愛しいのです。
恋心とは、なんとも複雑で、難しいです。
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