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プロローグ
とある真夏の昼下がり、その死体は一本の電話にて発見された。
まるで捌かれた魚のように床中に臓器をまき散らかした元人間は、ミンミンと蝉が鳴き続ける窓の外の世界から切り取られたかのような、クーラーの効いた涼しい部屋に横たわっている。
「俺……ちょっと、ごめんなさい」
通報を受けて近くの交番勤務の巡査が駆けつけた時、そのあまりの凄惨さと異常さに、すぐさま警察庁に知らせが届けられた。
刑事局捜査一課の新米、黒岩刑事は、現場を見た瞬間血の気が引いてしまい、即退散した。
彼とともに現場へ足を踏み入れたベテランの青木刑事でさえも、思わず「ひでぇな」と呟いていた。
駆けつけた鑑識も眉をひそめたほど。
青木は、その場でぐしゃぐしゃに散らばっている人間だった肉塊を見つめると、成仏できないだろうなと思う気持ちとは別に、両手を合わせておいた。
それから、部屋の隅のソファに腰掛けて震えている女性に目を向ける。彼女の横には、澄まし顔で立っている執事がいた。
まだ若い女性は、血痕で顔や服が染まっていた。
それよりもひどいのは彼女の隣に佇む執事のほうだ。端正な顔と服を返り血で染め上げていながら、何事もなかったようにソファの横で棒立ちしている。
青木は二人に近寄って、決まり文句である「署まで同行願います」と事務的に伝えた。女性はびくりと肩を震わせ、執事は丁寧に頭を下げた。
それほど時間もかからず、調べがついた。
殺害された被害者は女性の旦那。加害者は、女性の使用していた汎用執事型ロボットで、名前は白鷺。
ロボットによる人間の殺人事件は、前代未聞の論争を世間に巻起こすこととなる……はずだった――。
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