お花山を推す

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 その後おれたちは、しばらく木陰でセミの声を聞いていた。ユウキはおれのことをチラチラ見ていたが、やがて遠慮がちに言った。 「あのさあ。さっき海道……くんが、今度いっしょに遊ぼって言ってたよ。高瀬くんと、朝原くんも」 「いやだね」  おれは即答した。 「だってそんな暇ねえよ。たくさん稽古して、冬休み場所ではあいつら全員ぶっ倒すんだからな」  キッパリ言い切ってやると、ユウキは嬉しそうな顔をした。 「じゃあ、つぎは優勝する?」 「おう。それから春休み場所も全部勝つ。六年生のやつら、負けっぱなしのまま引退させてやる」  爺ちゃんには「横綱がそういうこと言うな!」と怒られそうだが、おれは心に決めていた。もう怖がらない。立ち合いで変わられて焦ったり、負けてべそをかいたりしない強い力士になってやる。土俵ぎわにいるだけで相手が落ち着かなくなるような、どっしり構えた本物の横綱になってやるのだ。名前どおりの「山」みたいな横綱に。  そのためには、もっと稽古しなきゃな。そう言うと、ユウキはますます顔を輝かせて「あっそうだ!」と叫んだ。 「来年は、おれも小学生だよ。お兄ちゃんといっしょにけいこしてもいい?」 「えー……。まあ、爺ちゃんがいいって言ったらな」 「わかった、じいじに聞く! 早く帰ろ!」  飛び上がるユウキに、おれはくぎを刺した。 「おい、稽古中はお兄ちゃんって呼ぶなよ。おれはお花山だぞ」  立ち上がると、ユウキは駆け寄ってきて手をつないだ。汗ばんだ手が滑らないようしっかり握り、おれたちは山を下りはじめた。
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