ヒーローの帰る場所

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 ***  一年が過ぎた。  私にとっては、あまりにも長い、長すぎる一年。  息子は少しだけ大きくなり、私は疲れ、それでも彼がいない生活に少しだけ慣れてしまい――その慣れに怯え始めた、そんな頃だった。  私の夢の中に、一人の少女が現れたのだ。  真っ黒な闇の中、魔法使いのローブを身に纏った、緑色の髪の少女。私は直感した。彼女が、夫を連れていった張本人だと。 「……あなたね?大海さんを連れていったのは」  彼女を睨みつけると、少女はびくりと肩を震わせ――そして、こくりと頷いた。 「ごめんなさい。……そうです。私が、魔女マーテルが、貴女の旦那さんを異世界転移させました」 「そう。で、夫はいつ帰ってくるの?」 「ま、魔王との和平交渉が終わったので……復興作業が終われば、すぐ」 「復興作業?そんなのあんた達だけでやればいいじゃない。いつ終わるの?今日?明日?」 「え、ええっと……」 「答えて!私達は、一年も待ったのよ!?」  きつい物言いをしているのはわかっている。それでも、止められなかった。  だって一年間見てきたのだ。大好きなパパの話をしたら、ママが悲しむ。それが分かって、パパの話を我慢するようになった息子を。本当は、秘密なんて話さなくても幼稚園でいじめられているのに一人耐えている息子を。  そして私達が、世間にどのように見られているのかを。 「ご、ごめんなさい。本当にごめんなさい……」  マーテル、と名乗る少女は何度も何度も謝ってきた。 「クリフィア鉱石に適合する人間が見つからなくて……やっと見つけたのが、異世界にいるヒロミさんだったんです。世界を平和にするためには、クリフィア鉱石の力が必要……そうじゃなきゃ魔王とまともに戦うこともできない。だから、どうしても、ヒロミさんに来てもらうしか……」 「そのよくわからない鉱石だとか宝石だとか、悪いけどそういうの知ったこっちゃないんだけど。……私達からすれば、意味不明な理由で夫を突然奪われて、何のサポートもない状況なわけ。わかってる?」 「ご、ごめんなさい、でも私は……」 「言い訳なんて聞きたくないから!イセカイテンイ?勝手に異世界の人間誘拐しておいて何都合のいいこと言ってんの!ふざけないでよ!私達にだって生活があったのに。あんた達の世界の問題でしょ、なんであんた達だけで解決しないの?私達のことを巻き込まないでよ、こっちの世界に迷惑かけないでよ、ねえ!!」  一年間、ため込んでいたものを全部ぶつけた。  彼女達も本当の本当に、切羽つまっていたのかもしれない。他の選択肢がないと縋るような気持ちで異世界召喚とやらを考えたのかもしれない。  でも、悪いけれどそんなこと、この令和日本の世界を生きる私達に何の関係があるというのだろう? 「大体、和平交渉ってことは、魔王を倒す必要もなかったんじゃない。本当に、あの人の力が必要だったの?」  私の言葉に、それは、とマーテルが顔を上げた。 「……必要、でした」
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