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第十一話 調査
セリーヌと共にお城の中の探検をしてみたが、なにせ質素な城ということもあり早々に飽きてしまった。
「外も見たい」というセリーヌの一声で、私たちはお城の外にやって来た。
ドアを開けて城の庭に出ると、なんの面白げもない綺麗なだけの庭が広がっていた。
芝生は適度な長さに切り揃えられ、花壇は理路整然と道に沿って立ち並ぶ。
眩しい太陽が噴水のある水場を輝かせているが、ただそれだけだ。
綺麗なだけでなんの趣きもない。
おそらくギルドマンの性格なのだろう。
生真面目なだけで味のない男だ。
「ちょっと外に出たいのだけど?」
「許可は降りてますか?」
「ええ。もちろん」
「わかりました!」
私はしれっと嘘をつく。
衛兵は私の言葉を疑いもしなかった。
彼は鍵を用いて門を開ける。
ゴロゴロとした重い音が響き、門が静かに開いていく。
「じゃあ行こうか」
私はセリーヌの手を引いて城の外へ出た。
大きな道を挟んだ先に民家が立ち並んでいる。
ヴァラガンの生活レベルは、他の町よりも比較的高い。
これは資本経済の特徴だが、人や物が多く集まるところには基本的に金持ちが集まるという仕組みだ。
ちなみに私がたまに買い物をする際のお金の出所は、ヴァラガンからの数年に一回の依頼料だったりする。
命の危険があるため、一回の金額が膨大なのだ。
「あっちの方に行ってみたい!」
セリーヌはそう言って走りだす。
走っていった先は民家のある通り。
城の近くというだけあって、民家もそれなりに立派な出で立ちをしている。
街の端の方にある建物のように、パイプやらが飛び出た感じの増築したものではなく、最初からしっかりとデザインされたまとまった家。
ちゃんとコンクリートで作られていて、それぞれの家に庭もある。おまけに二階建てでレンガの屋根までついていた。
「危ないから走らないで!」
私はそう言いながらセリーヌの元に駆け寄っていき、民家の立ち並ぶ通りのど真ん中でセリーヌを抱きかかえた。
「走らない」
「は~い」
セリーヌは口だけ反省した様子を見せたが、顔は全然反省していない。
仕方がないとも思う。
ずっとあの質素な城の中ではつまらないと思うのが普通だ。
「うるさいわね。一体何の騒ぎ?」
閑静な住宅街とでも言うべきか、富裕層の集まるこの通りでは道の真ん中でお話はしないものらしく、家の中から一人の高齢女性が顔を出す。
「すみません。すぐに……」
私は一応形式上謝罪をしようとしたら、おばさんはスタスタと近寄ってきて私の顔を覗き込む。
ああ、マズイ。
そう思った時にはすでに遅かった。
「アンタまさか……魔女ね!」
最後だけ語気荒く、声を上げた。
「魔女ね」という言葉には侮蔑の意思が強く込められているように感じた。
この街に入るときのようなそれとはまた異なる気がした。
「魔女だとなにか問題でも? 私は統括のギルドマンに呼ばれてこの街に滞在しています」
私はギルドマンの名前を出す。
城の近くに昔から住んでいるなら、彼の名前の効果は絶大だ。
街の外にいた連中とはそこが違うだろう。
「嘘よ! ギルドマン様が、アンタみたいな穢れた存在を呼ぶわけないわ!」
おばさんは私を指さして叫ぶ。
彼女の声に反応して、周囲の家から次々と小金持ちが集まってきた。
ゾロゾロと集まってくる様は、まるでゾンビだなと心の中で笑いながら、私は平然として立ち尽くす。
集まってきた者たちから次々と心無い言葉がかけられる。
「淫乱の痴女」
「血を啜る怪物」
「その少女はどこから攫ってきた?」
もう慣れている。
魔女である私が嫌われているのは知っているし、恐れられてもいるのは知っている。
たとえ誰かを助けたとしても、すべて何か裏があるのではないかと疑われる。
今回はセリーヌを攫ってきたと思われているらしい。
セリーヌは街の門のところでのことを思い出したのか、反論ではなく私の腰に手を回してしがみついてきた。
よくわかって来たじゃない。
それでいいのよ、セリーヌ。
私は心無い言葉を浴びながら、それらを無視して彼女の頭を優しく撫でる。
なんてことはない。
彼女さえ元気でいてくれれば、私には他に何もいらない。
「消えていなくなれ! ここ最近街の変死体事件も、お前たちの仕業じゃないのか?」
全てを無視していた私も、最後の一言は意識せざるを得なかった。
そうか、ここに住む魔女たちは人間だと思われていたのか。
魔女という認識をされずに人間として過ごしていたんだ。
だったら事件の謎も少しは晴れてきそうだ。
少し不思議に思っていた。
魔女は通常の人間よりも明らかに強い。
ここに集まっている人間たちの態度を見れば一目瞭然。
自分たちをいつでも殺せる存在が、自分たちの中に紛れ込んで暮らしているという現状が、彼らをこうまで焚きつけるのだ。
だからこそ疑問だ。
影霊事件の被害者は、全員が魔女。
一体誰が魔女を一方的に八人も殺せる?
しかも資料によると、現場に魔法を使った戦闘の痕跡は無かった。
不意打ちにしろ、魔女が一切魔法を使うことなく殺されるなんて考えにくい。
そう思っていたけれど、その疑問もたったいま解けた。
魔女としてではなく、人間として暮らしていたのなら話は変わってくる。
魔女は不思議の担い手、普段人間として生活していれば、彼女たちの周囲に不思議は寄り付かなくなる。
不思議は科学を嫌う。
この街の人間に溶け込むために、この街の生活基準と同じものを享受していたのなら、それは魔女の知識とちょっとした魔法が使える程度の存在でしかない。
夜闇に紛れて襲われて、即座に放てるような攻撃的な魔法なんて使えるはずもない。
「事件について何か知っているのですか?」
私は批判を気にせず逆に尋ねた。
せっかく人が集まってきているのだ、情報を集めたい。
「私はギルドマンから正式に依頼されて事件の解決のためにやって来ています。何か知っている人がいましたら教えてください」
私のまさかの反応に、さっきまで騒いでいた人間たちは驚きの表情を浮かべていた。
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