第一章 役員秘書になってみよう

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 確か凛は今日は気分がよかったはずだ。まだ靴を脱いだばかりの玄関先である。そんなところに立たれては部屋に入れない。中に入れてほしい。 「お父さんの会社の社長の秘書がやめてしまったんだ。今いるのは総務課から引っ張ってきた人なんだが……」  そこで父は言葉を濁す。 「はあ……」  しつこいようだが玄関先である。  なぜ父が、いきなりそんな事を切り出し始めたのか分からなくて、中途半端な答えを返すことしかしかできない凛だ。 「今時の子って、困る」  父が言っている今時の子、と言うのはその総務課から引っ張ってきた人のことなのだろう。  凛自身は今、保険会社でアソシエイト職と言われる職に就いている。就職して五年ほども経つのだが、果たして今時の子なのだろうか?  アソシエイトと言うと何となく響きはいいが、内実は営業のサポートだ。  業務内容としては、営業に必要な資料の作成や、電話の取次、経費の精算、スケジュールの管理に、書類の作成などかなり多岐に渡る。  支店に所属している三十人ほどの営業社員を、アソシエイト三人で見ている。  営業社員達は毎日出勤してくるわけではないので、毎日三十人を見るわけではない。とは言え、大体ざっくりと担当は決まっているものではあるのだが。
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