10人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
その木は、小高い丘に一本だけしっかりと根を下ろし、まるで周りを見守っているかのようにそこに立っていた。
夜になり、その木の幹に背を預けて見上げると、折り重なる葉の間から夜空に瞬く星々が見える。それが、まるで星が咲いているように見えるので
「星の咲く木」
地元の若者の間では、そう呼ばれていた。
(懐かしい…)
私が、夫の転勤でここを離れてからもう10年以上になる。
その間、両親の様子を見に帰って来たことはあったけれど、この木に会いに来るのは、本当に久しぶりだ。
幹に触れ、感触を楽しんでいると…
「ここにいたのか」
振り返ると夫が立っていた。
「懐かしいな、この木」
「…ええ。そうね」
二人で木を見上げると、柔らかな風が吹き抜けてゆく。
「君と、僕の縁を結んでくれた木…だな」
そう言った夫に微笑みかけ、私は再び、星の咲く木を見上げた。
若者の間では、もう一つ。今でも言われている事がある。
この木の下で告白すると恋が叶う。
私は、ここであった出来事を思い出していた。
私の、恋の物語を……。
最初のコメントを投稿しよう!