3 再会

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 居酒屋はたくさんの同期で埋め尽くされ、あちこちで話の花が咲き、ざわざわとした喧騒に包まれていた。  夏目は、今でも付き合いがある、皆川、佐々木、高田と話をしつつも、意識はずっと、春田にあった。  春田も同期の男子に囲まれていたのだが、そのうち、一人になる。  そこを逃すと話せなくなりそうで、夏目は、春田のところへと向かう。  「……春田。久しぶり」  「…夏目。久しぶり」  「隣、いい?」  「…どうぞ」  壁にもたれ、二人で並んで腰を下ろす。  目の前に広がっているのは、騒いでいる同級生…。  思い出すのは、あの、体育祭だ。  二人はしばらく、無言のまま、座っていた。  「……春田、結婚するんだってね」  「……ああ」    わかってはいたが、春田の口から聞くと、ぎゅっと胸が痛んだ。  「そっか。」  「ん…」  「春田はさ、その人のこと、好き?」  馬鹿な質問だと思った。  結婚を決めた男に聞く質問じゃないと思いつつも、夏目は聞かずにいられなかった。  「大事にしたいと、思ってるよ」  「……そうか。そうなんだね」  泣きそうになった。だが。  夏目は、涙をこらえて、前を向いた。  「結婚、おめでとう」  「………ありがとう」  春田はそういうと席を立った。  「俺、そろそろ帰るよ」  方々に軽く挨拶をし、春田は店の入り口へと向かった。  そこで、一度、夏目を振り返った。  が、当の夏目は、気持ちを整理するのにいっぱいいっぱいで、それに気づかない。  ガラガラと、居酒屋のドアが開く音が、やけに大きく夏目の耳に響く。  そして、閉まる音が聞こえた瞬間。  泣きそうになって、引き寄せた膝に、顔を埋める。  そんな夏目の耳に、同級生たちの声が聞こえてきた。   「なぁ、聞いたか?春田の結婚。あれ、なんか責任取ったとか、そういう話らしいぞ?」 「え?どういうことだよ」  「俺の従兄弟がさ、たまたま春田と同じ会社にいるんだけど、春田の同期の女子がさ、両親の結婚記念日に何かプレゼントしたいけど何がいいかって、飲み会で相談したらしいんだよ」  「それが、どうやって責任取ったにつながるわけよ?」  「まあ、待てって。そん時、春田が旅行なんかどうかって提案したんだと。で結局、春田も色々手伝って、両親は旅行行ったんだけど、その旅行先で、二人とも事故に遭って亡くなっちまったんだと」  夏目は思わず、顔を上げた。  「いっぺんに両親を亡くしたその女子を、ほっとけなくて…的な?」  「旅行勧めたの自分だからって?そこまでするか?普通」  「でも、あの春田だぞ?」  「ああ。ありうるか」  夏目は、思わず、居酒屋を飛び出した。  がむしゃらに、春田の後ろ姿を探す。  春田に会って、何を言おうと思っているのか、夏目にもわからなかった。    (好きで結婚するわけじゃないの…?)  (なら、もしかしたら…)  そんなことを考えてしまう自分が、嫌で、でも、考えてしまう。  (まだ、私にもチャンスがあるの…?)  誰もいない通り、街頭の光に照らされた後ろ姿。  「は、春田!!」  驚いたように振り返る春田。  「夏目…?」  走り過ぎて、息が上がってしまった夏目が叫ぶ。  「明日!明日の21時。星の咲く木下で待ってる!!」  春田の瞳が、揺れる。  春田が口を開こうとした。  「待ってるから!」  春田の返事も聞かず、再び夏目は走り出す。  春田はしばらくその場で立っていた…。  
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