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4 星の咲く木の下で
翌日、21時。
夏目は、丘の上にある星の咲く木にたどり着いた。
そこに、春田の姿は、なかった。
まだ、わからない。
少し遅れてくるかもしれない。
そう思って、木に近づいた夏目は、あるものに気がついた。
一枚の紙。風で飛ばされないよう、石が乗せられた、一枚の紙。
その紙には
『ごめん』
その一言だけが、書かれていた。
たった、一言。
紙に書かれた文字に、ぱたぱたと、水滴が落ちる。
夏目は、紙を胸に抱いて、泣いた。
もう、来ないのだ。
春田は来ない。
決めてしまったのだ。一人の女性の人生を引き受けることを。
真っ直ぐで、責任感の強い春田。
そんなところが好きだった。
ずっと。ずーっと好きだった。
だが、もう、夏目の想いは、届くことはない。
あと一回。
あと一回会えたなら。
そんなことを言っていないで、東京へでもどこへでも、行けば良かった。
そうすれば、自分にもチャンスがあったのだろうか?
涙は流れて、言葉は頭をぐるぐると回る。
けれど、もう、この心は、想いは、永遠に届かない。
星の咲く木はには、きっと星が咲いているのだろう。けれど、今の夏目には、見えない。
こうして、長年続いた夏目の恋は、終わりを告げたのだった…。
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